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96#ひなた、絶望する

 ◇校舎屋上◇


 ここから、配下のゾンビ達に命令して、屋上から落ちたら死ねるかな……


 人間を食べた後は、いつも自殺願望が発現する……


 そして、私が本気で自殺しようと試みると、確実に意識を失い、元に戻る時には概ね人間を食べて、一息ついた頃だった。

 しかも、最悪な事に元に戻る前の記憶はしっかりと有る……人の肉があんなに美味だったなんて……



 因みに手首を切る程度では、意識を失う事は無い……その程度では死ねないのだろう……



 今回私が殺した(食べた)学生は、秘境探検会の岡田 真央だった。


 私は友恵か武志にしたかったのだけど、希望通りにはいかなかった。


 理由は解る……単独行動している真央は突然いなくなっても、食料が無くなって、一か八かで外に出たと思われるだけだ。


 意識の無い私は残忍で狡猾だ……


 後ろから人の臭いが近づいて来てる……


「ひなた、屋上でなにしてるんだ?」


 もう呼び捨て? 図々しいわね……


「なんの用? 大蔵君」

 私もわざと君付けをしてみる。


「武志でいいぜ、みんなもそう呼んでる……でだなら、またあの校舎に行って、食べ物を探さないか? あそこなら、まだまだ有る気がするんだよ」


 ふふっ正解よ……長期戦に備えてまだまだ有るの……



「あら? もう? たくさん食べたのね……」


 わざと彼を煽ってみた。


 彼の表情は険しくなったわ。

 わかりやすいわね。


「あれは、盗まれた……だから直ぐにでも探したい……なぁ2人で探しに行かないか? 」



 2人? 下心付きかしら?

「あら 私とだけ? 一之宮君も連れていったら? 私は……いざとなったら……見捨てるわよ?」



「ふっ……ひなたは本当の繁を知らないだけだ……」


 あら?興味深い台詞(セリフ)ね……



 結局、食料探しには繁も連れて行った。

 今回は、繁には少し多めにゾンビ達を襲わせてみた……彼は状況判断が早い……彼なら本気を出せば校舎から脱出して、1人で生きて行けると思う……

 何故皆と一緒に籠城しているのだろう……



 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 幾日か経過したある日……


 佐助は友恵にある事を報告していた。


「あの『星空研究会』の2人……外から来た女性と一緒に他の校舎から食料を見付けて来てるみたいです……」


「そう……他の校舎にはまだ食べ物が有るのね……佐助君、あなたも取りに行けるかしら?」


「あ……いや、無理だよ……上から見てたけどかなりの数のゾンビどもに追いかけられていた……あいつらの度胸と運動神経は凄いよ……」


「そう……話してくれて、ありがとう。今回は手でしてあげる……」


 ……

 …………

 ………………


 友恵は今後の事を考える……


 どう生き延びるかを……

 私は何故か同姓からの受けが悪い……


 それに比べ男は簡単だった。

 ちょっと誉めるだけ……でも誉めすぎは逆効果だ。

 男の言動から誉めるポイントを見抜き、くすぐる程度に誉めるのだ……そして、必要となれば手や口を、使って思考を奪う。


 しかし、同じサークルのメンバー大蔵武志は、駄目だった……何故ならアイツは野獣だったから……私が手玉に出来る相手はもまともな人間だけだ。


 あと残された選択肢は、『中瀬弘』と『一之宮繁』の2人……


 弘の方は食料は、殆ど無い……

 ならば、武志の友人ってのが引っかかるけど繁の方に行くしか無いわね……



 ……

 …………

 ………………


 珍しいツーショットを見つけた、その人らは繁と友恵だった。


 2人はぴったりと寄り添う様に座って、何か話している……


 まぁ食料の無心でしょうけど……俯いている繁の太股を擦る友恵……


 色仕掛けね……もう少し近くで見ましょう……



 声の聞こえる距離まで近づいたら既に、状況がかわっていた。

 繁が怒っている? みたい……


 繁が友恵の、顔を掴んで締め上げているみたいだ。


「な、何するの? 痛い、痛い!」


「君はもう少し色々覚悟した方が言いと思うな、中途半端な色仕掛けは、逆効果だよ……武志にも同じ事したのかい? だから襲われるんだ……食料を外から手に入れたいなら命を賭ける覚悟、人の物を奪うなら奪われる覚悟をだ。体を売る覚悟も無いのに薄着で男に近づくな」


 と、そのまま乱暴に突き放す。


 倒れたまま友恵は食い下がる。

「な、なら……お金を上げるわ、いくら欲しい? 家に戻ればかなりの金額が有るのよ? 10万? 20万?条件が良ければもっと出しても良いのよ?」


 彼女はあるサイトを使い、口淫だけで荒稼ぎしていたのだった。



 繁は友恵の胸ぐらを掴んで、顔面にパンチを繰り出した。



 盛大に転がる友恵。

 その友恵は泣きながら叫ぶ。

「なによっ!、何にも出来ない人は死ねって言うの! ゾンビのいる中、外に出れる訳無いじゃない! それでも身体は売りたく無いの! そんな人達は死ぬしか無いの? 助けてよ……私、死にたくない……助けてよ……」


 友恵の叫びは最初だけで、後の言葉は力が無かった。


「そうだ……此処では力無い者は死ぬだけだ……」


 ……

 …………

 ………………


 私達は4人で食事を採っている。


 結局、『死ぬだけ』と突き放しておきながら、友恵を仲間に加えたのだ……


 勿論、武志は不満な表情を隠していないし、文句を言ってたのだが、繁の一言で引き下がった。



 ふぅん……普段は繁がおとなしく、武志が威張っていたから今まで気づかなかったけど……彼らの力関係、やっと理解出来たわ……



 友恵が私に話しかけてきたわ。

「あなたは、普通にここにいるけど……どんな役割なの? ……まさか」



 まさかってなによ? 変な目で見てると頭から食べるわよ?


 私が答える前に武志が話してきた「ひなたは、俺より強い……だから惚れたんだけどな……」


 武志の言葉に繁と友恵はぎょっとしていた。


 私もビックリしたけどね……でも無理だよ私はもう人間じゃないし、武志は好みじゃないわ。


 ……

 …………

 ………………


 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 数日後……



 私は孤立した佐助を食べ、その後は……弘、芹香、円香を殺害して外に投げ捨て、ゾンビたちに保管をさせた。


 そして、また幾日経過したある日……私は繁に、屋上に来る様にと呼ばれた。



「なにかしら? 一之宮君?」


「以前から疑ってはいたんだが、先日確信が持てたんだ……君は知性の有るゾンビなんだね?」



 私は何故か楽しくなった。

「うん、そうよ……でもどうして気付いたの?」


「特に隠したりはしないんだね……うん……気付いたのは初日からかな? ゾンビは君を襲うまねをしていて実際には襲われていなかっただろ? ……それに僕らにも本気で襲ってこなかった……」



 私は初日で繁に、ばれている事に驚いた……


「じゃ何で今まで私を見逃していたの?」



「それはまだ予想の段階だったからさ……それにあの時は敵だと解らなかった」


「じゃいつ確信に?」


「えっと誰だっけか……たす、たす……あっ佐助だっけ? そいつが行方不明になってからだな……この頃から君はこの校舎に、いる全員を監視しているのが分かった、僕はそれを見ていたんだ」



 私は驚いた、みんなを観察しているのを、監視されていたことに……でも人の臭いなんてしなかった筈……

「おかしいわね、確かに人の気配なんて……あっ」


 繁の手に有るのは双眼鏡? まさかこれで、遠くから監視されていたの?

 本当に驚きだわ……



 しかも、ここから見えない位置に人が隠れている……

 武志かしら……


 私はある種の期待を持った……この繁を含めた2対1なら、私に勝てるかもしれない……



「そう、正解よ私は 知性を持ったゾンビなの……死体より生きたら人間が食べたくて、こんな回りくどい事をしていたのだけど、もう終わりね……1つ忠告しておくね。私は戦いになると人の言葉が解らなくなるわ……」


「……?」


 勿論私はわざと負けたい……殺して欲しい……でも私のゾンビとしての本能がそれを許さない。


 私は少しでも繁が有利に戦えるように、自分の指を折ろうとした時、意識が無くなった。


 ……

 …………

 ………………


 私は人間だったら致命的な傷を受けていた……


 そう……私は繁達と戦いそして勝ってしまった……


 繁の戦いは本当に大学生かと疑うような強さを発揮していた。


 しかも、伏兵は武志だけでなく友恵まで居た。


 まさか人間が密着していると私の嗅覚で2人いると判断出来ないなんて初めて知ったわ。


 おかげで、私には多数の傷を受けたけど死ぬに至らなかった。


 そして私は彼等を食べて力を回復した。

 

  嫌いな人間以外を食べたのは弟以外では、初めてだった……


 もう、ゾンビしかいないであろう大学の敷地で叫んだ。

「誰か私を殺してぇぇぇぇぇぇ!!」




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