94#衝撃の結末
登場人物紹介
『嵐山大佐』ゾンビ映画の愛好家? 上官の指示を無視した成果が茨城県の某所一帯を守る結果となった。
『嵐山節子』在神教の教祖で超能力者らしい。親しい人々からは『狂気の予知姫』と呼ばれている中年女性。
『荒波渡』100万分の1の確率で抵抗者となった。
『前庭ひなた』100万分の1の確率でエルダーゾンビとなった。
『崎守岬』渡に助けられた若者。
『鈴城美鈴』渡に助けられた若者。
『古都成誠』渡に助けられた若者。岬に気がある。
『北野優樹菜』渡に助けられた歳上の女性。渡に両親の死を教えてくれた。
渡は、おびただしい数のゾンビ達から逃げ延びる事に、成功していた。
しかし、渡本人も助かるとは思っていなかった様で、息を切らせながら何故助かったのか考えていたが、答えは出なかった。
実際は、渡は『抵抗者』になってから、ゾンビ達に餌だと認識されるのに時間がかかるようになっていた。
ゾンビ達は渡を普通の人間の半分の距離まで接近しないと、渡を餌だと認識出来ない。
この状況を踏まえ、近くに転がった目覚まし時計の音の方に大部分のゾンビ達が反応して、渡は軽傷で逃げる事が出来たのだった。
渡は夜遅くまで、考えていた。
あの目覚まし時計は、俺が作った物だった緩衝材は無かったが、塗料の1部が残っていたから間違い無い。
俺は裏切りに合ったんだ……たった4人のグループで、何の亀裂が生じるんだ?
ゲーム浸けだった恋愛に疎い渡には、男女間の情のもつれなどは理解が出来なかった。
渡は誰かの裏切りに心を痛めながらも、リヤカーを1台取り戻して、実家に向かって歩いて行った。
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途中、多数のゾンビに足止めや迂回など余儀なくされて、実家にたどり着いた頃には1週間が過ぎていた。
玄関の鍵は持っていないので呼び鈴を押したが、誰も出ない。
渡としても、親がいつまでも家に居るとは思ってはいない……だが、父さんの事だ、手がかりを残している可能性は高い……
玄関の扉には鍵が掛けられていたが、勝手口は鍵は掛かっていなかった。
中に入ると、今までお邪魔した家と比べると、綺麗に整頓されている。
父さんと、母さんは、この非常時でも整理整頓していたんだ……ちょっと呆れるな……
リビングに置き手紙を発見した。
『向かいの大型マンションに行ってる』
父さんらしい書き込みに、ちょっと笑顔が漏れた。
◇大型マンションエントランス◇
ここは、酷い有り様だった。
バリケードが壊された後があるし、大量の血溜まりも多数点在している。
血の臭いもしている…………血の臭い!? まさかこの流血事件は最近の出来事なのか?
廊下、ポストスペース、パーティルーム、キッズルーム、等あちこち歩きまわった。
渡が見るに、どうも統制してあった跡が見受けられるが、争いの跡もある……何が起こったのか予想も出来ない……
渡は各住居も調べる事にした。
住居を50戸も調べたあたりでは、ゾンビは殆ど単体で出現していた。
そして50数戸目のある部屋で、縛られてぐったりしている人間を見つけた。
生きてる? それとも死体? まさかゾンビじゃないよな……
その人間は生きている様だ、渡の気配に気づいて顔を上げたからだ。
「あっ、だ、大丈夫ですか? 何故縛られて……」
縛られている女性は渡の事をじっと見つめていたかと思うと、瞳に光が宿った。
「………………もしかして荒波さんの息子さん?」
彼女は渡の事を知っている様だ。
「えっ? あっ!? と、父さんと母さんを知っているんですか?」
渡は縛られて身動きの取れない女性が、何で縛られていたのかを忘れ、女性に話しかけた。
女性は20代後半の渡より少し歳上の人だった。
女性は渡が急いで取りに戻った、食事と水分を採りながら、ここで何が起こったのか説明してくれた。
渡の両親はゾンビ発生でパニックになったマンション内を、まとめ上げ秩序を取り戻した事。
食料、水を徹底管理して配給制にした事。
ゾンビを倒し、怪我人を別棟に集め二次被害を防いだ事。
そんな中、荒波夫妻に渡が写っている写真を見せてくれた事。
馬鹿な子 故に幾つになっても可愛いと思っていると聞いた事。
初めのうちは英雄扱いされていたけど、食料の配給の少なさと、怪我人と会えない身内がいることで、不満が膨れ上がっていた事。
そして、2日前に不満が爆発して、内部暴動が起きた事。
内部暴動とは、怪我をした家族に会うためにバリケードを撤去して、大量ゾンビが流れ込んだ。
さらに食料に不満を持った人々が食料の奪いあいを初めて、完全にパニック状態に陥った。
さらに、1部の人々がこの事態を荒波夫妻に押し付けた事。
そして、恐らくそのせいで、荒波夫妻はゾンビ達の犠牲になった事。
女性が最後に荒波夫妻を見たのはゾンビ達に襲われた自分を助けてくれた事を……
渡は拳を握りしめながら、両親の死を理解した。
「で、あなたは何故縛られて……」
「優樹菜です。北野優樹菜です。私はずっと荒波さんを支持していたから……それに……」
優樹菜は渡に怪我をした腕を見せた。
「あっ…………」
渡は納得してしまった。
それから2人はお互いの自分の事、今までの事をたくさん話した。
2人はいつの間にか寄り添う様に会話をしていた。
流石の鈍い渡でも解る……優樹菜は渡の父親が好きなのだったと。
そして、父親の面影を色濃く残している渡に寄り添ってしまっている事も。
優樹菜は死に行く自分に対して、渡に最後の思い出を要求した。
渡も優樹菜の欲しているは自分の父親だと何となく察していたが、優樹菜を受け入れた。
……
…………
………………
渡は裏切りと、両親の死に様を聞いて心に僅かな闇を灯した。
しかし、それだけで人間全てを嫌いになるまでには至らなかったが……
数日後……
結局、優樹菜はゾンビにならなかった。
渡はもしかして自分と同じゾンビにならない体質だと思ったが、渡の時の様に高熱が出たり、傷が一晩で完治したり、身体の調子の向上が見られなかった。
結果、渡は自分と全く同じでは無いかもしれないと判断を保留にした。
~抵抗者から、体液や血液を貰うとゾンビにならないと言う事実を……そして優樹菜との行為で彼女の中に渡の体液が入り、そのお陰で優樹菜が助かった事を渡はまだ知らない~
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(父さん……母さん……ごめん……もう少し早く親の大切さに気づいていれば…………俺は……謝る事も出来なかった……)
渡は独り隠れて涙を流した。
両親の死を知った渡は、今後の行動目標を失った。そして、数日前の裏切りと両親の死の経緯のせいで人の関わりを避けたくなった。
恐らく父親がの事が好きであろう優樹菜の事は、嫌いにはなれないし、身体も重ねてしまった。
優樹菜が渡と一緒に行動すると言われれば、断れない。
こうして渡は、優樹菜と目的の無い旅を続ける事になった。




