93#裏切り?
登場人物紹介
『嵐山大佐』ゾンビ映画の愛好家? 上官の指示を無視した成果が茨城県の某所一帯を守る結果となった。
『嵐山節子』在神教の教祖で超能力者らしい。親しい人々からは『狂気の予知姫』と呼ばれている中年女性。
『荒波渡』100万分の1の確率で抵抗者となった。
『前庭ひなた』100万分の1の確率でエルダーゾンビとなった。
『崎守岬』渡に助けられた若者。
『鈴城美鈴』渡に助けられた若者。
『古都成誠』渡に助けられた若者。
渡たち4人組は、新たなホームセンターを制圧した。
渡はゾンビに対して、同時に3体までしか対処出来なかったが、岬と美鈴が加わり1度に5・6体同時に対処出来る様になって、行動の幅が拡がった。
渡は少数のゾンビを見つける度に、岬と美鈴にゾンビを倒すコツを教え込んだ。
岬も美鈴も、意外に飲み込みが早く、一対一なら余裕が出るほどになった。
初めから渡に好意的だった美鈴は当たり前だが、岬も今では渡に好意的になっていた。
渡の主食が、カップ麺とカロ◯ーメイトなのを、笑顔で突っ込みを入れるくらいには……
誠は、どうしてもゾンビに近づく事が出来ない……なので、リヤカーを牽引する役割しか出来なかった。
そんな、臆病な誠を岬と美鈴は冷めた目で見ていたのだが、渡は役割をこなしているので誠に対しても普通に接している。
しかし、誠の渡を見る目は暗く濁っていた。
特に、岬が渡に対して好意的な視線を向ける様になってからは、目の濁りは濃い物になっていった。
渡は岬と美鈴に、ゾンビネットとゾンビハンドの作り方を教えていたが、渡の様には作れなかった。
「渡さん、よくこの……この……改造虫網を作れますね……私には難しいです」
美鈴は『ゾンビネット』の単語の発言に抵抗があるようだ。
「うんうん、手を抜いて作ると、絞めたワイヤーが弛んで、ゾンビが脱出しちゃうからねぇ」
岬が会話に交ざる。
「渡さん、なんで親切に教えてくれるんですか? 私達、何も持ってないのに……」
「ん? だっていい方法があったらみんなに教えるのは当たり前じゃん。それに俺と別れた時に何も出来ないと辛いよ?」
今度は美鈴が渡に質問する。
「渡さん、先日も別れた時の事を話していましたよね? どうしても、別行動しないといけないんですか?」
岬も渡が、近いうちに別れる事を前提とした会話に疑問を持っていた。
「俺はさぁ、これから両親を探しに行く予定なんだ。出来ればもっと一緒にいたいけど……俺の都合でみんなを巻き込めないだろ? 」
渡としても、岬と美鈴は可愛く感じるので、本音では別れたくない。
「私、渡さんの両親探すの手伝います! 」
美鈴が渡に言う。
「わ、私も手伝う……みんながいればゾンビも恐くないわよ、きっと……」
美鈴に、対抗するかのように岬も言う。
「でも渡さんって親思いなんですね……私なんて、今を生きるので、いっぱいいっぱいで親のことなんか、考えていませんでした」
「私もです。この状況で両親の事を考えられるなんて凄いと思います」
渡を持ち上げる岬と美鈴だったが、渡は首を振りながら正直に今までの渡自身を2人に話した。
小さい頃から無理矢理、様々な習い事を受けさせられた事。
塾では習わないような事は、両親に直接しごかれた事。
やりたい仕事が見つからないのを良い事に、就職先まで勝手に決められた事。
それらが原因で、親と居るのが嫌になって、絶縁した事。
そんな自分が、今になって両親の教育のおげで、このゾンビが蔓延る世界で生きていける事を実感したら、急に両親の会いたくなった事を話した。
岬と美鈴は渡の話を聞いても評価を下げることは無かった。
むしろ、自分を誇張しないで正直話した渡に、さらに好感度を上げたくらいだ。
しかし、3人で盛り上がる度に禍々しい芽が育っているのを3人はまだ知らない。
……
…………
………………
渡達4人は装備 を増やして、3台のリヤカーを牽いていた。
2台は従来のゾンビ対策アイテムと食料品、医療品をのせ、もう1台にプランターを載せた。
プランターには、早めに収穫できる『20日大根』『ほうれん草』『小ネギ』『パセリ』等、他多数 植えられていた。
ホームセンターには、野菜の苗や種が豊富にあったのだ。
渡は母親が教えてくれた知識から収穫の早そうな野菜を主軸に選んで野菜を育てて見ることにしたのだ。
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岬と美鈴は 渡の発想力、行動力、判断力、雑学の知識など、ゾンビの蔓延する世界から生き残る術を持っている渡にどんどん惹かれていった。
そして、渡は若いとはいえ最年長なのに偉そうにしないし、意外と抜けている所があってそれが、2人に更なる親しみを与えていた。
既に2人は、未だにゾンビと向かい合えずビクビクと怯えながらリヤカーを牽いている誠には眼中に無い。
暫く渡達の快進撃は続いたが、20体を超えるゾンビと遭遇して、近くの会社に逃げ込んだ……
この会社にも『新太陽光発電』があったため電気を使える様に設定しながら、渡は多数のゾンビの対処を考えていた。
(うん……リスクはあるし、遠回りになるけど『ゾンビコイコイ』を使うか)
と、考えながら電子ポットを探していた。
渡は電動シャッターの電子ポットを見つけた時、電動シャッターが開きだした。
「なっ!? なんでシャッターが開く?」
しかしさらに驚く事が起きていた……開いたシャッターのそばには目覚まし時計が鳴り響いていたのだ。
渡は慌てて、目覚まし時計のベルを止めに行った。
しかし、時計の針を回しても、目覚ましの時間を設定しなおしても、ベルは鳴り止まない。
「か、改造してあるだと!?」
しかも乾電池を入れる箇所はネジ山が潰れていて、取り出せない。
渡は目覚まし時計を地面に叩きつけ壊すことにした…………が、振り上げた手はそれ以上 下がる事は無かった。
音に引き寄せられたゾンビが、渡の腕を掴んでいた。
渡は既に多数のゾンビ達に囲まれていた。
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岬と美鈴は目覚まし時計の音を聞いて、窓越しに渡がゾンビ達に囲まれているのを見つけた。
「渡さん! 渡さんっ!」
渡を助けようとする岬にいつの間にかそこにいた誠が制止する。
「もう、無理だ! 助からないよっ! 今の内に逃げにきゃ」
「何があったの?」
と美鈴は誠に質問した。
「解らない……もしかしたら、渡さんは目覚ましの改造に、失敗したのかも……」
「そんな…………」
「美鈴さんからも言って、今逃げないと全滅する……」
暴れる岬の頬に美鈴はビンタをした。
「岬、残念だけど逃げましょう」
「美鈴!? あんた渡さんを見捨て……ぁ」
岬は、美鈴が唇を噛んで、涙を流しているのを見た。
(そうか、美鈴の方が先に渡さんを好きになったんだっけか……)
美鈴の涙を見て、冷静さを少し取り戻した岬は、ゾンビ達から、逃げるため反対側の出口を見つけて脱出する……
しかし、脱出先には渡が作ったリヤカーが2台置いて有ったのだ。
「何でこんな所に?」
「渡さんの考えなんて解らないよ……でも丁度良い。これを持って逃げよう、早くしないと!」
納得のいかない岬と美鈴だったが、岬がゾンビネットを持ち、美鈴と誠が2台のリヤカーを牽いてこの場を立ち去った。
岬「渡さん……ごめんなさい……」
美鈴「渡さん……渡さん……渡さん……」
誠「…………………………」
ゾンビ達から逃げた3人の足取りは、各々の想いを胸に秘め、夕闇に消えていった。




