92#ファミリーレストラン
登場人物紹介
『嵐山大佐』ゾンビ映画の愛好家? 上官の指示を無視した成果が茨城県の某所一帯を守る結果となった。
『嵐山節子』在神教の教祖で超能力者らしい。親しい人々からは『狂気の予知姫』と呼ばれている中年女性。
『荒波渡』100万分の1の確率で抵抗者となった。
『前庭ひなた』100万分の1の確率でエルダーゾンビとなった。
『崎守岬』渡に助けられた若者。
『鈴城美鈴』渡に助けられた若者。
『古都成誠』渡に助けられた若者。
◇某ファミリーレストラン◇
この中にゾンビ達の被害を逃れた、約10人のグループがあった。
しかしこのグループは今、内部崩壊の危機を迎えていた。
理由は減っていく食料と1人の横暴な態度が原因だった。
その横暴な男は レストランのエリアマネージャーで、週2回ほど来ては、威張り散らして帰っていく男だった。
初めは店長がエリアマネージャーを抑えていたのだが、エリアマネージャーが体格の良い2人組を味方に付けて、店長に暴行を加えて追い出したのだ。
それからは、エリアマネージャーと2人組の男だけが充分な食事を採っていた。
更にエリアマネージャーはとんでもない事を……提案した。
「食料も少なくなって来たし、これからは役に立つ者だけに食事と寝る場所を与える」
と言ってきたのだった。
男は食料の調達、女にはエリアマネージャーを含めた3人のシモの世話だった。
誰もが怒鳴って反対したかったのだが、2人組の男が恐くて、何も出来ない。
そして、エリアマネージャーに我慢の出来ない2人の女と、そのうちの1人に惹かれていた男が、1人、レストランを追い出される形で、ファミリーレストランを出て行った。
女の名前は『崎守岬』と『鈴城美鈴』
男の名前は『古都成誠』
「ねぇ、これからどうする? 岬さん……」
男が不安そうに聞いてくる。
「私、下の名前で呼ばれるほど仲良くなったつもりは無いわよ」
「別に私達と一緒じゃなくてもいいんじゃない? ね古都成君?」
「そんなぁ……折角なんだから一緒に行動しようよ……男手があれば役に立つって……」
彼の外見は細くて、不健康そうなほど青白い肌の色をしていて、明らかに頼りなさはそうだ。
レストランの出入口から、1人の男が声をかけた。
「おーい、今なら俺らに口でさせて下さいってお願すれば、仲間に戻してやってもいいぞぉ?」
2人組の男がニヤついていた。
「あんた等のなんて、死んでもごめんよ!」
岬は男達に聞こえる程度の声量で答える。
「あっそう……じゃ精々生き延びてくれよっと」
男達は数枚の皿とグラスを、岬達に向かって投げた。
ガシャーン!! と皿とグラスの割れる音が響きわたる。
「何て事してくれんのよっ!」と言ってみたが、既に男達は建物の中に避難している。
岬や美鈴は石を探して建物のガラスを割りたくなったが、今はこの場所から逃げる事が優先なので、実行に移せない。
「岬、直ぐに移動するよっ」
「解った……」
3人は急いでこの場を離れた。
しかし、物音を聞きつけたゾンビと遭遇してしまう。
「こっちはダメ! 戻るよっ」
来た道を戻ると、先程までいなかった複数のゾンビ達が待ち構えていた。
「お~~」「う~~」「あ~~」
「ああっもうダメだぁ」
誠が頭を抱えてしゃがみこんだ。
「ちょっとあんた、座ってないで何とかしなさいよっ! 男でしょ?」
美鈴が活を入れるが、誠は悲鳴しか出さない。
「なんで、フェラチオ断ったぐらいでこんな目に合うのよ!」
涙目になって、レストランの連中を呪う岬。
死を覚悟した岬に、美鈴が話しかけて来た。
「岬、後!」
岬は何事かと、言われたままに振り替える。
岬と美鈴は巨大な虫網に引っ掛かる瞬間のゾンビを見た。
ゾンビの背後に誰かいる……その誰かを確認しているうちに、もう1体のゾンビも虫網の餌食になった。
「君たち、今なら大丈夫! こっちに来て、急ぐ!」
岬と美鈴はお互い顔を見合せ頷くと、誠をひっぱたき「助かるよっ 何時までも座ってないで動く!」
3人は網にかかったゾンビの間をすり抜けて危機を脱した。
「あ、ありがとうございます」
岬は渡に礼を言うが、渡に遮られる。
「まだ、終わってない」と言ってゾンビを転がしてハンマーで頭をかち割る。
渡は油断しないで、次のゾンビを見る……「3体か……君、手伝えるか?」
渡は誠に話しかけるも、頭を横に振られた。
渡は気にした様子も無く「俺1人でやるか……」
と言った。
「私、手伝う!」「私も!」
岬と美鈴が手伝いを名乗り出た。
「ほんと? じゃ君には『ゾンビネット』」
岬に『ゾンビネット』を3本渡す。
「ゾンビネット!?」
「君には『ゾンビハンド』」
美鈴に『ゾンビハンド』を3本渡す。
「ゾンビハンド!?」
「俺は『ゾンビストッパー』っと」
渡は『ゾンビストッパー』を構える。
「「ゾンビストッパー!?」」
渡はゾンビストッパーを使い、ゾンビを押し込み転倒させる。
そのまま下がり、岬から『ゾンビネット』を受けとり、ゾンビの上半身の動きを封じ、美鈴から『ゾンビハンド』受けとり、もう1体のゾンビの下半身を封じた。
倒されたゾンビが起き上がる頃には、2体のゾンビの頭は潰されていた。
最後のゾンビは渡に上半身と下半身を封じられ、ゆっくりと頭を潰されて、動きを止めた。
岬と美鈴は渡の手際の良さに見とれていた。
だが、岬は自分に言い聞かせる。
この大被害以来、人間達……特に男達が変わってしまった事を……
一方、美鈴は突然助けに来た渡の事を『白馬の王子様』の様に感じていた。
……
…………
………………
お互い自己紹介した後、4人なった渡達は、渡の奨めで、ドラッグストアーを目指していた。
表面上は笑顔でも、内心渡に警戒していた岬が何故ドラッグストアーなのか聞いていた。
渡は「コンビニには目ぼしい物はもう無い……有ったとしても、ゾンビの徘徊率が高い……それにコンビニだと、これが入らない……」
渡が引いているリヤカーを見た。
そのリヤカーには、渡が作成したゾンビ対策アイテムが大量に積んであった。
渡が助けに来た当初は、救助隊のメンバーと勘違いしていた3人だった。
その理由は、ゾンビに臆する事無く立ち向かえる勇敢さと、ゾンビ対策アイテムの存在だった。
ドラッグストアーに着くまでに、2回ほどゾンビと遭遇したが、渡1人でゾンビを倒してしまった。
ドラッグストアーに到着した渡は商品の搬入口からリヤカーごと入り、何やらちょこちょこ動いていた。
3人は渡が何をしているの解らないでいたが、突然店内の照明が点灯した。
「えっ? 明るくなった……電気が回復したの? なんで……」
岬と美鈴が驚く……
渡がにこやかにやって来て
「なぁ、カップラーメンにしようぜ」
と言って、カップラーメンと電気ポットを持ってきていた。
渡は、カップラーメンを啜りながら 『新太陽光発電』の仕組みを説明した。
簡単な話、普段は電気を売る『売電モード』と貯めた電気を使う『給電モード』の切り替えがあるって話だった。
渡は3人は、この後どうするのか聞いてみたが、生きるだけでいっぱいいっぱいだったらしく、答えがでなかった。
渡の目的は家族に会うのが目的だが、全く急いでいないので、対ゾンビに慣れるまで一緒に行動をする事に決まった。
美鈴がゾンビ対策アイテムの事を聞いて、渡の自作品だと知ると、ベタ誉めしていて渡が照れ笑いをしながら、全アイテムを説明した。
ゾンビネットを見せる。
「ゾンビネットは大きな虫網で、ゾンビに被せてからこの紐を引くと両手が拘束出来るんださらにフックと紐を付けてるからガードレールや電柱に結んでゾンビの行動を制限できるよ」
次にゾンビハンドを見せる。
「ゾンビハンドは強力なマジックハンドだ。脚が交差した所で紐を引くと脚を拘束できるんだよ、慣れないと上手くいかないかもね」
次にゾンビストッパーを見せる。
「ゾンビストッパーは只ゾンビを押し返す頑丈なただの棒だね……」
次に建築用の大ハンマーをみせる。
「ゾンビハンマーはゾンビを殺すんだ。ゾンビは頭を潰せば殺せるからね」
次に目覚まし時計を見せる。
「これは、ゾンビコイコイだ。簡単に言うと目覚まし時計に、緩衝材を巻き付けただけ……青色に塗ったのは効果は約10分、赤色に塗ったのはネジを壊したから電池が無くなるまで鳴り続ける、非常時はこいつをぶん投げれば危機を脱出できるかも知れない」
岬と美鈴はネーミングセンス以外の発想力と造作能力に感嘆した。
「それで、4人になったから出来ることの分担をしないか?」
来た!と、岬は警戒した。
岬は食料や助けた事を理由に身体を要求される覚悟をした。
「おおまかに説明すると、①に、ゾンビの動きを封じる係り。②に、ハンマーでゾンビに止めを刺す係り。③に、ゾンビ対策アイテムを渡す係り。④に、リヤカーを運ぶ係り。俺は①と②を兼任するから、出来れば誰か1人は①か②を手伝って貰いたい」
と、渡は誠を見る。
身体の要求を覚悟した岬は拍子抜けした。
(この渡って男は欲が無いの? 彼なら、この状況を利用すればやりたい放題なのに……)
「食料の配分とか、管理者は決めないの」
美鈴も疑問に、思った様だ。
「は? 分配? 管理? 要らないじゃんそんなの俺は偉くもないし……たった4人だよ? それより何を食べたいか意見を出しあって、調達しようよ。でも……ホームセンターは行って置こう……俺がいなくてもゾンビから生き延びれる様にしないとな」
渡に対する認識を変え始めた岬だった。




