【九十九 ちょっと強引な女主人】
そんな二人の様子を微笑ましく見ていた高翠蘭はふと真面目な顔した。
「……それよりも、皆様お食事と宿は?お決まりですか?」
「まだ、ですが……」
「ご飯を食べようとお店を探してたらこのオジさんに絡まれたんだよ!もうボクたちお腹ぺこぺこだよー!」
「ちょ、玉龍!」
「まあ!それは……本当に夫が申し訳ありません」
玄奘の答えに被せるようにして口を開いた玉龍の訴えに、高翠蘭は驚いて口元に手を当てそれから深く頭を下げ謝罪した。
「お疲れのところ、こちらまで長々と申し訳ありません。改めてお礼を。本当にありがとうございました。間も無く部屋と食事の支度も整いますのでぜひ当家にて、旅の疲れを癒してください」
「こんな大きなお屋敷に泊まっていいの?!」
高翠蘭の申し出に玉龍の顔が輝く。
「玉龍、いけませんよ。高様、私たちはそこまでしていただくわけには……」
玄奘が慌てて辞そうとすると、そこへ使用人が高翠蘭の元へ部屋と食事の支度が整ったと知らせにきた。
「いえ、どうかご遠慮なさらずに是非。もう支度も整いましたので」
「え、あの……でも……」
「お師匠様、ここはありがたくお受けしましょう、ね?」
口をぱくぱくさせてどう断ろうかと慌てる玄奘に、孫悟空がそういって耳打ちをした。
「どうやら元々俺たちを泊まらせる気だったみたいですよ。荷物ももっていかれてしまっていますから、ここは」
「わかりました……では一晩だけお世話になります」
玄奘としてはせっかくなので廟に泊まりたかったのだが、こうなっては仕方なかった。
「やったー!ふかふかお布団!ふかふかお布団!」
玄奘の判断に玉龍がぴょんぴょん飛び跳ねて喜ぶ。
龍宮を出てから今までずっと野宿だったから嬉しいのだろう。
一方、孫悟空はいびきをかいて眠る豚男を警戒していた。
もしかしたら玄奘を狙って絡んできたのかもしれないと思ったからだ。
それに、孫悟空と玉龍を妖怪だと見破った彼の妻、高翠蘭にも警戒していた。
(今度こそ、黒風怪の時のようにお師匠様を襲わせたりしないからな)
きっと何かある、と眠る豚男を睨みながら、密かにそう決意する孫悟空だった。
「はー、ごはん美味しかったねえ!龍宮の料理とおなじくらいおいしかったよ!」
「ありがとうございます。料理人たちも喜びますわ」
玉龍が満足そうに膨れたお腹をさすって言うと、食後のお茶を運んできた高翠蘭は嬉しそうに礼を言い、茶を三人に淹れた。
仄かに黄色い茶からは不思議な花の甘い香りが漂ってくる。
「茉莉花茶ですわ。最近こちらを訪れた商団から買い付けたんです」
「へえ、お花のお茶……いい香りだね」
「そうですね」
「お師匠様、待って」
玄奘が口をつける前に孫悟空は玄奘の茶杯と自分の茶杯を取りかえそれを一気に飲み干した。
孫悟空の分には何も入っていなかったのは確認済みだ。
「なんです、悟空!みっともない……!」
「お師匠様の方が美味しそうだったからさ」
嗜める玄奘に孫悟空がうそぶく。
(お茶にも食事にも何も入っていなかった……とすれば、夜……寝込みを襲う気か?)
「悟空!」
考え事をしている孫悟空の耳には玄奘の声は届いていないようだ。




