【九十一 黒風怪の悲しき黒歴史】
孫悟空は観音菩薩に言われたとおり、似たような菩薩の姿に変化した。
孫悟空が参考にしたのは恵岸行者と顕聖二郎真君だ。
恵岸行者のほがらかさと顕聖二郎真君の輝くような銀の髪と端麗な容姿。
正直、性に合わないほどのきらびやかさを身に纏うのは気が進まなかったが、観音菩薩の言いつけに逆らうのは危険だ。
従うしかない。
「こちらは美猴王。私の眷属です」
「は?!」
勝手に眷属にされた孫悟空は思わず表情を崩すが、観音菩薩の眼力に口をつぐんだ。
「ほわぁぁぁ……キラキラしとる、キラキラしとるのぅ……!」
黒風怪は目を輝かせて観音菩薩と孫悟空を交互に眺めている。
「どうです?その袈裟を返し、あなたも私の眷属になり修行を積めば、こちらの美猴王のようになれますよ?」
「わしも、キラキラに……?」
目を輝かせて言う黒風怪が光り物を集めるようになったのには理由があった。
黒風怪は、かつてとある仙人の元で他の山の動物たちと共に修行を積んでいた。
共に修行を積んだ仲間の中には茶毛の雌の熊もいて、黒風怪はその熊に惚れていた。
修行も終盤に差し掛かるころ、黒風怪は仙人の元を出て独り立ちすることになった。
そこでその雌熊に告白したのだが。
「アンタみたいな真っ黒なヤツ嫌!もっとツヤツヤの輝いた方がいいわ!」
そう言って彼女はこっぴどく黒風怪を振り、別のオスと番になってしまったのだ。
「わしがもっとキラキラしとったら……今頃……」
黒風怪はそこから異様に光り物を欲しがるようになったのだった。
それらを身につけて自身もまたきらびやかになったと思い込んで傷ついた心を慰めてきたのだ。
「なる!眷属になる!わしは眷属になってキラキラになる!」
「そうですか。私の修行は厳しいですよ?ついて来れますか?」
「わしは仙人の修行を一度受けておる!キラキラになるためなら更なる修行など朝飯前じゃ!」
鼻息荒く言う黒風怪に、観音菩薩は慈悲深い視線を投げかけ頷いた。
孫悟空は見ていられず、ひたいに手を当て点を仰いだ。
「さて、あなたは黒風怪を恵岸のところへ運んでください。私はあの子の元にこちらを返しに行きますので」
「え?あ、ハイ」
「恵岸行者とやらもキラキラしておるのかの?の?」
觔斗雲に乗り込み、自分のことを見上げてくる黒熊のつぶらな瞳に、孫悟空は憐れみを抱きつつも微笑むふりをすることしかできなかった。
一方、玄奘は彼を守るために龍の姿になり、とぐろを巻いた玉龍の内側で膝を抱えて落ち込んでいた。
玉龍のとぐろの内側は冷たい風を通さず、冬山の冷え込みの影響は受けずに済んでいる。
「落ち込んでも仕方ないよ、おシショーさん」
自身の腹の内側で落ち込まれ居心地悪そうに玉龍が玄奘を励ます。
「観音菩薩様にあんな哀しげな目をさせてしまうとは……」
しかし玄奘はずっと落ち込んでいて、元気を取り戻す様子はない。
「でもおシショーさんは、たとえそれを知っていてもあの熊のおジイちゃんに袈裟を上げていた気がするな……」
違う?と玉龍が聞くと、玄奘はとぐろの中で顔を上げ、しばらく考えてから頷いた。
「はい……たとえ騙されていたとしても……私は後々後悔するよりもその時私にできることをするまでですから」
もし嘘ではなく、その人が本当に困っていたらと思うと、玄奘に拒否はできないだろう。
「だよねえ……」
出会ってまもない玉龍だが、玄奘の優しさとそのお人好し振りはよく理解していた。
だからこそ、今回のように、玄奘が傷つくようなことにならないように、もっと自分がしっかりと玄奘をまもらなければと、玉龍は密かに決意をしたのだった。




