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深沙の想い白骸に連ねて往く西遊記!  作者: 小日向星海
第十章 黒風怪と錦襴の袈裟
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【八十八 観音菩薩、阿修羅身となる】

 玄奘が命を落とせばこの二人の行く末は……。


 想像するのが恐ろしくなった玄奘は膝の上で拳を握った。


「悟空、その子を責めるのはもうその辺になさい」


「観音菩薩様!」


「カンノンさん!」


 突然現れた観音菩薩に、玄奘と玉龍は驚き姿勢を正す。


「べ、別に俺はお師匠様を責めてなんか……」


 だが孫悟空はそんなことは気にせず唇を尖らせてぶつぶつと呟いた。


 観音菩薩は玄奘に近づき肩に手をおく。


「悪いのは玄奘ではありません。錦襴の袈裟を騙し取った、黒風怪なる妖怪です」


 そう話しながら、観音菩薩の姿が次第に変わっていく。


 憂いの表情をした頭部は三つに増え、腕が四本追加され六本に。


 増えたその腕には弓、矢、日輪と月輪がそれぞれ握られている。


 そして肌の色は白から燃え盛る炎のような真紅へ。


 やがて、観音菩薩は炎をまとう完全な武闘神の姿になった。


 観音菩薩の持つ三十三の姿のうちの一つ、阿修羅身だ。


 異形の姿になった観音菩薩を前に玄奘たちは声も出ない。


 特にそれを間近で見ていた玄奘は驚きの表情のまま固まってしまっている。


「奪われたのなら取り返せばいいのです」


 攻撃的な物言いは、阿修羅身になったからだろうか。


 観音菩薩は孫悟空に手を伸ばした。


「さあ悟空、私と共に錦襴の袈裟を取り戻しましょう」


「は、はい……」


 彼の背負う気迫に、孫悟空は敬語で頷いてしまうほど。


「玉龍はここで玄奘を守りなさい。わかりましたね」


「う、ハイ……!」


 黒風怪を取り逃した玉龍は自分もついていきたかったが、それは言わずに飲み込み頷いた。


 観音菩薩の口調は優しいが、有無を言わせない圧力がある。


「玄奘、くれぐれもここから動かないこと。くれぐれも。わかりましたね?」


 阿修羅の姿の観音菩薩に念を押され、玄奘は無言でこくこくと頷いた。


「さあ、まいりましょう」


 こうして阿修羅身となった観音菩薩の号令で、錦襴の袈裟奪還作戦が決行された。




 荒れ寺から少し西に行った山の崖下に、黒熊の妖怪、黒風怪のねぐらの黒風洞がある。


 ごつごつとした岩壁に囲まれたその場所の、その地面には落ち葉が敷き詰められ寝床が準備されている。


 熊の妖怪である黒風怪はこれから冬眠をするのだ。


「はあああ、ええ匂いがするのお〜」


 黒風怪はスーハースーハーと錦襴の袈裟を嗅いで恍惚の表情を浮かべている。


「あの坊主の肉を喰らおうと思ったが、このキラキラした袈裟!わしゃキラキラしたもんが大好きなんじゃ!はぁーこれを布団にして、いい冬眠ができそうじゃあ!ウッフフィ!」


 すりすりと頬を寄せてご機嫌な黒風怪は錦襴の袈裟を抱きしめて、落ち葉で作った寝床に横になった。


「この袈裟からは……ふあぁ……上質な……仙力を感じる……むにゃ……春に目覚める頃には、わしの力は……もっと強くなってるはずじゃぁ……」


 上機嫌で呟く黒風怪の声はやがて寝息に変わっていった。


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― 新着の感想 ―
[一言] なるほど、阿修羅も観音さんの一つの姿…信仰している宗教の違いからか、すごく学ぶべきものが多く、ためになります。しかし、阿修羅の姿って、かなりの戦闘モードですよね。果たしてコソ泥妖怪、捕まるの…
2023/05/04 00:01 退会済み
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