【八十二 玄奘、玉龍の年齢に驚く】
玉龍が頭を下げた勢いで凄まじい風が生まれるが、玄奘はなんとか踏ん張りその圧に耐える。
「ごめんなさい!ボク、死にそうなほどお腹が空いてて……それで……おボウさんの大事な白馬を食べてしまいました!本当にごめんなさい!!」
「そ、そうですか……」
初めは玉龍の迫力に内心怯えていた玄奘だったが、玉龍のその透き通った海のような優しい瞳にきづき、そっと近づいて玉龍に触れた。
ツルツルとした龍の鱗の感触と、フサフサとした白に近い金色のたてがみ。
触れたその龍の硬い肌は意外と冷たくて、玄奘は驚いた。
こんなにも冷たいのに脈動は力強い。
「白露は……あなたの命を救ったのですね」
その命の証に玄奘から笑みが溢れた。
「お、怒らないんですか?」
優しく触れてくる玄奘に、玉龍は恐る恐るたずねる。
「そうですよ。ゲンコツの一発でもかましてやればいいのに!」
シュッシュと拳を振りながら孫悟空が言うと、玉龍は決心したように青い顔をしつつキツく目を閉じた。
「この子を殴っても白露は帰ってきません。白露はその命をこの子の命に繋いだのですから立派な最期だったのです」
「これからはボクがハクロ君の代わりに馬になります!」
そう言って玉龍は馬に変化した。
立派な馬具をつけた逞しい白馬だ。
「観音菩薩がこいつを馬がわりに使えってさ。人間の馬より丈夫だし、天竺まで楽だろうって」
「そ、そうですか……」
「ヒヒン!」
「い、いえ私は……」
「ブルルルル!」
「ええと……」
馬の姿になると話せなくなる玉龍は、グイグイと鼻面を玄奘に寄せて「乗れ」と迫る。
どうも元の姿が幼い子どもだと思うと、いくら目の前の姿がガタイの良い馬でも乗るのには気が引けると玄奘は後退った。
「こいつ人に変化するとあんな見た目ですけど、龍なんで歳は千歳超えてますよ。八百歳代の俺よりもだいぶジジイなんで遠慮なんていらないですよ」
孫悟空の言葉に玉龍は同意をするように頷く。
(千歳ってだいぶ高齢じゃないですか……!そっちも気を使いますよ!!)
そう思ったものの口には出さずににっこりと玄奘は微笑んだ。
「え、えーと、今は疲れていないので、そのうち疲れたらお願いしますね」
「わかったー……あ、でも疲れたらいつでも言ってね!」
少ししょんぼりしながら玉龍は人型に戻ってそう言った。
一行は、とりあえず日が暮れる前に五行山を降りようと歩き出した。
「そうだ。あのさ……お師匠様、その……」
孫悟空は観音菩薩から聞いた玄奘の親のことを話そうと思うがなかなか言えない。
観音菩薩が言った、今の玄奘には重い話だという言葉が頭から離れないからだ。
「どうしました?」
「ええと……」
首を傾げる玄奘に、孫悟空は目を泳がせて頭を掻いた。
思えば、玄奘にとって悟空と出会ってからは怒涛だったことだろう。
きっと体だけではなく心も疲れているはずだ。
そう考えると、観音菩薩の言う通り玄奘の両親のことを今は伝えるときではないかもしれない。
「あ、そうそうお師匠様、今回の戦い、哪吒たちと共闘したんですけど、一人俺様の知らないすんごい美形がいたんですよ!髪は炎のように赤くて肌が深い紺色で……」
孫悟空は、観音菩薩から聞いた玄奘の親の事を伝えるのをやめ、話題を変えることにした。




