【七十七 孫悟空、観音菩薩より身外身の術を伝授される】
チクチクとした痛みと共に何かの力が全身に行き渡る不思議な感覚に、孫悟空は居心地悪そうに首を傾げたり肩を回したりする。
「これでお前は身外身の術を使えるようになりました」
そんな不思議な感覚がなくなった頃、観音菩薩が言った。
「身外身……?」
「簡単に言うと分身の術です。お前の体毛に息を吹きかけて撒くと分身が生まれる、と言う簡単なものですよ」
やってみなさいと促され、孫悟空は毛を数本抜き、観音菩薩がやっていたようにその毛に息をフッとかけた。
すると、一回りほどの小さな孫悟空が三体現れた。
「へえー!これは便利だな!」
これなら今回のように玄奘のそばを離れることになっても大丈夫だろう。
「ありがとな、観音菩薩!」
「いえいえなんの」
孫悟空は何度も分身を作っては消し、術の練習をし始めた。
そして数分ほど経ち、孫悟空がようやく術に慣れてきたころ。
孫悟空はふと思いついて観音菩薩を振り返った。
「ところで、さ……その、アンタはお師匠様のご両親のことは知ってるんだろ?教えてくれよ」
孫悟空の言葉に観音菩薩は難しそうな顔をした。
「うーん……それはちょっと、釈迦如来様の言いつけがあってできないんですよ。今のあの子には重すぎるので」
釈迦如来の目的はあくまで玄奘を天竺に連れて行くこと。
それに玄奘は玉果である。
多くの妖怪たちが玄奘を道中狙うだろう。
だから無事に天竺へ来てもらうためにも寄り道はしてほしくないというのが釈迦如来の考えなのだ。
「そっか……でも生きているかどうかだけでもわかるんだろ?」
だが孫悟空は食い下がる。
「わたしはまだ菩薩なので、人の生死を完全に知ることは出来ないのですが……そうですね……」
観音菩薩はそう言って目を閉じた。
玄奘の魂……金蟬子の気配を探るためだ。
玉果となった玄奘の魂の気配は血のつながりのあるものにもあらわれる。
(細い……か細い存在……だが……)
観音菩薩は顔を上げて孫悟空を見た。
「生きていると思います。おそらく。場所もわかりませんし断言はできませんけど……」
珍しく歯切れの悪い言い方をする観音菩薩を孫悟空は不思議に思った。
「アンタはなんでも知ってるのかと思った。その鏡とかに映せないのか?」
「残念ですが、私はまだこの鏡を上手く扱えなくて……まだ修行が足りないようです」
今の自分には何もできることはないのだと観音菩薩は首を振る。
「そっか……でも生きているって分かっただけでもお師匠様喜ぶから。ありがとな、観音菩薩」
孫悟空の礼に観音菩薩は力無く微笑んだ。
「きっと縁があれば機会は訪れるでしょう。それまでどうか、お前は玄奘を守ってあげてくださいね」
「もちろん、任せてくれ!」
あの乱暴な石猿がこんなにも頼りになると思うことになるとは、と観音菩薩は驚きつつありがたく思ったのだった。




