【七十 観音菩薩、玉龍探索に助力する】
まさかこの場に観音菩薩がいるとは夢にも思わなかった孫悟空は、思わず緊箍児を嵌められた時のことを思い出して固まった。
かたや哪吒太子はその場に膝をついて礼をとる。
「おや?」
恵岸行者の声に哪吒太子が慌てて固まったままの孫悟空を引いて座らせる。
「こら孫悟空、控えろって」
観音菩薩は流沙河と海の境を眺めてから二人に向き直った。
「玉龍を追ってきたのですね」
「はい。早めに対処したので近隣の人里の被害は少ないかと。現在もク……托塔李天王が指揮をとっています。ですが肝心の玉龍が孫悟空が水の底に沈めたきり出てこなくて」
「そうですか」
「血が出ていないのでおそらく生きてはいると思いますが」
硬直したままの孫悟空に代わり哪吒太子が説明をする。
「ご、ごめんなさい、俺そんな強く打つつもりじゃなくて!お師匠様に乱暴はいけないって言われていたのに……!」
孫悟空は顔を青くして声を振るわせて言う。
いつもの友人らしからぬ様子に哪吒太子は怪訝そうに孫悟空を見た。
「わかっていますよ、孫悟空。あなたは悪くありません」
観音菩薩の言葉に孫悟空はほっと息を吐いた。
「ここから先は私が参りましょう。では」
そう言い、観音菩薩は川の中へと静かに入っていった。
「ニ哥は行かないのか?」
その場に残った恵岸行者に哪吒太子が尋ねる。
「まあ、自分にできることは無いからね。それよりも、河伯殿はまだなのかい?」
孫悟空と哪吒太子はあたりをキョロキョロと見回して河伯を探すが、紺色の肌に炎のような赤い髪という、遠目にもすぐわかるような見目のものはいない。
「あー、そういえば……」
「どこにいるんだろう……」
孫悟空と哪吒太子は顔を見合わせて首を傾げた。
その頃、玉龍との戦いから戻ってきた、怪我をした托塔李天王の眷属たちの手当てを終えた青鸞童子は、孫悟空たちと同じことを考えてあたりをキョロキョロと見回していた。
「青鸞殿、いかがされた」
托塔李天王がそれに気付き青鸞童子に声をかけた。
「義父上がどこにもいなくて……探しに行ってきてもいいですか?」
「うむ、許可しよう。おそらくあの方のことだから、玉龍を追うよりも人間たちを救うことが大事だと判断してどこかの村で救助活動をしているかもしれんな」
「──!、わかりました、ありがとうございます!」
托塔李天王からの許可を得た青鸞童子はすぐに翼を動かし、空から川沿いの村を見て回った。
村の数はそんなに多くはない。
小さな村が三つほど、距離を置いて点在している。
玉龍の尻尾が打った川の水と突然の雷雨は人間たちの村にも被害を与えていた。
家屋は水に流され、人々は混乱している。
各村へと護衛派遣された托塔李天王の眷属たちは人々を避難させ更なる困難から守ろうとしている。
空は玉龍が呼んだ雷雲が未だ立ち込めており、玉龍が川に落ちてからは止んでいたのにまた、ぽつりぽつりと雨が降ってきた。
その雨足はすぐに強くなった。
「義父上……義父さま……!」
視界がだんだん悪くなっていく。
「どこですか、義父さま!」
豪雨にこれ以上の飛行は困難だと判断した青鸞童子が下降を始めると、目の端に鮮やかな赤色が飛び込んできた。
「見つけた!」
青鸞童子はその赤を目指して急速下降した。




