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深沙の想い白骸に連ねて往く西遊記!  作者: 小日向星海
第六章 玄奘、孫悟空と出会う
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【二十九、五行山に囚われし猿妖の声】

 長安を出た玄奘は、皇帝からお供にと遣わされた数十人を引き連れて五行山にやってきていた。


 初めは皇帝から贈られた馬に乗っていた玄奘だったが、五行山の険しさに馬からおり、今は徒歩である。


 馬はお供のうちの誰がが引いてくれているようだ。


 緑の少ないごつごつとした岩山は歩くのが大変で、足を滑らせないよう玄奘を先頭にした一行は一歩一歩慎重に進すすんでいく。


 ところで、玄奘の荷物の中には一つの道具が入っている。


 その道具の名前は緊箍児きんこじ


 昨夜、玄奘が夢の中で観音菩薩から授けられた道具だ。


 玄奘は夢で観音菩薩と交わした内容を忘れないように、何度も思い出していた。



「玄奘、いよいよですね。まずは五行山へ行くといいでしょう」


「五行山……ですか?」


 本来ならば五行山は天竺へ行く道のルート外だ。


 なのに、観音菩薩はそこへ行けという。


「観音菩薩様、五行山に一体何があるのですか?」


「天竺までのあなたの守り役を一人、あそこに封じてあります」


「封じて……とは?」


 思いもよらない単語を聞いた途端、玄奘は嫌な予感を覚えて困惑した。


「もしかして、そこに沙和尚が……?!」


 ハッとして思い至ったが、彼が封じられるような者だとは思えなくて、玄奘は気持ちを抑えきれないほど興奮して観音菩薩を見上げた。


「いえ、五行山の山頂に天界で暴れていた猿の妖怪を閉じ込めているのです。あなたはその子をお供にでも弟子にでもしてあげてください」


「えっ、妖怪?!猿?!」


 予想外の返答にがっかりする間も無く玄奘は恐ろしさに青ざめた。


「弟子だなんてそんな、私にできるでしょうか……」


 玄奘には戦闘の知識も力も全くない、非力な僧だ。


 先日授かった九環の錫杖の重さにもようやく慣れてきたくらいなのに。


 これから妖怪と旅をするなんて想像もつかないことだ。


「玄奘……そうですよね、不安ですよね。でも、そんな時にはこちら!」


 不安を感じる玄奘を気遣うように、観音菩薩は明るく言って金の輪を取り出した。


 大きさは人の頭が入るくらい。


 観音菩薩はその輪を指でつつ、となぞった。


「これは緊箍児きんこじといって、いうことを聞かない妖怪を懲らしめる道具です。ある言葉をとなえると、これをはめた相手の頭をギチギチと締め付けて、そのうち……」


「ヒッ……!」


 その先を想像した玄奘は涙目になった。


「そ、そんな残酷な道具、受け取れません!」


「あなたの命を守るための道具です。あの猿──悟空はかなりの使い手。場合によってはあなたなどひとたまりもありませんよ」


「うっ……」


「まあ、使う使わないは別として、お守りとして持っておきなさい」


「は、はい……」


 そんな話を観音菩薩から聞いたものだから、五行山を行く玄奘の足取りは重い。


「はあ……」


 空気は澄んでいて、だんだんと肌寒さを感じるようになってきた。


 その悟空が封じられている場所──山頂は間も無くだろう。


 その時、まるで雷のような唸り声が聞こえてきた。


「な、なんだ、今のは」


「雷か?嵐が来るのか?!」


「山の天気は変わりやすいというからな……お坊様、どこかに避難いたしましょう」


「あちらに洞窟があります!あそこへ!」


 お供たちは浮き足立ち、右往左往している。


 玄奘は場を落ち着かせようと、錫杖を強く鳴らした。


 しゃん、と響く涼やかな音に、その場は静まった。


 お供たちが落ち着いたのを見てた玄奘は安堵して小さく息を吐いてからコホンと咳払いをした。


「これは猿の妖怪の声です」


「よ、妖怪?!」


 予想通り、皆一様にギョッとして目を剥いている。


「ここから先は私一人で参ります。みなさまはこちらで待機していてください」


「でも……」


「大丈夫です。私には御仏のご加護がありますので。では後ほど……」


 そう言って玄奘は一人、錫杖の音を立てながら山頂へ進んだのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] ついに孫悟空、堺正章の登場ですね!どんなキャラなのか、すごく楽しみです。孫悟空の物語も、味付けを変えるとすごくまた味わいが違っていいですね!小日向さん味の西遊記の味わいを、じっくり楽しみたい…
2023/02/26 12:22 退会済み
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