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深沙の想い白骸に連ねて往く西遊記!  作者: 小日向星海
【第十七章 記憶の彼方の両親の記憶】
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【二百八十二 法明和尚の提案】

 部屋はしんとしていて、囲炉裏の炭が時々爆ぜるパチパチという音だけがしている。


「──というのが殷氏からの話だ。その後お前を産んだ殷氏は夫との約束通り江の字をとって江流と名づけ、寺に預けたのさ」


 火かき棒で火加減を調整しながら法明和尚は話を終えた。


「親父さんがやられた時の話なんてよくわかったな」


「いや、これはどうにも罪の意識に耐えかねた劉洪の部下の李彪が、兄貴分から聞いたことを色々と話してくれたらしい」


 意図せず巻き込まれた形で共犯者にされてしまった小心者の李彪は、殷氏が身籠っていることを知ると産婆の手配から寺への移動なども劉洪の気を逸らしたり、劉洪を外に連れ出すなど手を貸してくれていたらしい。


「それで今、母は?」


 たずねる玄奘の声は暗い。


「今も江州長官として赴任している偽の陳萼の妻として過ごしている。いつか夫の仇と取る時を虎視眈々と狙ってな」


「でもその悪者のリュウコウが長官をしていたら江州の人たち大変だよねえ」


「だな。お師匠さまの父上、娘婿の一大事を宰相が把握していないとも思えないが」


 玉龍と沙悟浄が首を傾げると、法明和尚はやれやれと手を振った。


「江州の役人は優秀らしい。劉洪の仕事など、書類に判を押す程度のもののようだ」


 法明和尚の言葉に孫悟空たちは顔を見合わせた。


 かたや、玄奘ははぜる炭を睨みつけたまま。


「それよりも玉龍、お前の家にお師匠さんの親父さんの魂があるって妙見菩薩さまがおっしゃっていたが、心当たりはあるのか?」


「そう!それ、ボクもそれ気になったんだよね。父上たちに聞こうにも、ボクはカンドーされてカクニンに行けないし……」


 猪八戒に言われ、玉龍は難しそうな顔をして唸った。


「オシショーサマごめんね、ボクがカンドーされてなかったらもっと簡単に解決できたかもなのに……」


「いえ……」


 玉龍に話しかけられ、ハッとして玄奘は顔を上げた。


 その顔はいつもの優しい師のもので、玉龍はホッと胸を撫で下ろした。


「それについては宰相の殷開山いんかいざん様をたずねるのが良いだろう。宰相ゆえ儀式などにも通じておられよう」


「殷開山……果たして私に会ってくださるでしょうか……」


 唐の宰相ほどの地位の人間が、玄奘の話を信じてくれるだろうかと不安でいると、そんなものを吹き飛ばすかのように、法明和尚は「大丈夫、大丈夫」と笑った。


 そもそも玄奘は、本人に自覚はないが唐の太宗の命を受け法要をこなし、経典の旅も命じられるほどの、国では名の通った僧侶になっているのだ。


「欲のないやつよ」


 そのことに気づいていない玄奘に、法明和尚は苦笑して言葉を続けた。


「それに殷開山様はお前に必ずあってくださる。なぜなら玄奘、殷開山さまはお前のお祖父さまだからだよ」


 その言葉を聞いて、玄奘はようやく顔を上げた。


「それに今のお前はお母上に瓜二つ。きっとわかってくださるさ」


 玄奘は顔に手を当て俯き、少しの間何かを考えているようだった。


 少ししてから顔を上げた玄奘は弟子たちの顔をゆっくりと見回した。


「お願いがあるのですが……」


「もちろんですよ!」


 まだ玄奘が何も言わないのに、弟子たちはその願いを快諾した。


「はっはっは!良い弟子を持ったではないか。とりあえず……まあ、まずは玄奘の母上の殷氏をたずねるといい。夫の菩提を弔うために毎月金山寺に詣っているからな」


 法明和尚は火かき棒を灰にさして言った。


「金山寺に……わかりました。ありがとうございます、先生」


「今から行きますか!?俺様の觔斗雲の準備はいつでも大丈夫ですよ!」


「ええ、お願いします」


「玄奘、わしが代わりに天竺に行ってやるから、江州で存分にやるといい」


 法明和尚の言葉に一瞬目を丸くした玄奘は、クスリと笑って返した。


「ありがとうございます先生。でも天竺へは私が参りますゆえ、結構です」


 玄奘はそういうと、弟子たちと共に廃寺を後にした。


「言うようになったな」


 あっという間に空の向こうに消えた玄奘たちを見送り、法明和尚は廃寺に戻ったのだった。


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