【二百七十五 奎木狼、理由を話す】
玄奘たちが和んでいると、夫婦の言い合いが飛んできた。
「あなた!これからどうするのです。もう時間が……」
「すまない。でも、もう僕には……無理だよ」
「無理だなんて、どうして……!」
言い争う夫婦を、子どもたちが肩を寄せ合い指を咥えて不安そうに見ている。
玄奘は奎木狼と百花夫婦の言い合いに気づき、彼らに近づこうとすると、子どもたちがやってきて不安そうに見上げてきた。
「おぼうさま、お父さまたちを怒らないで」
「おこらないで」
大きな目に涙を浮かべて言う二人に、玄奘は微笑み、身をかがめた。
「大丈夫ですよ。あなたたちのお父さまは私をもとに戻してくださったのですから。怒ったりしません」
玄奘が抱きしめながら優しく言うと、子どもたちは安心したように微笑んだ。
「おいお前たち、いつまで喧嘩してんだ。子どもの前だろ、いい加減にしろ!」
孫悟空が言うと、二人はハッとして玄奘たちの方を向いた。
「さあ、お父さまとお母さまのところへお行きなさい」
玄奘が促すと、小さな子どもたちは親のところへ駆け寄っていく。
「どうしてこのようなことをしたのか、事情をお話ししてくださいますか?」
玄奘が子どもたちを怖がらせないようにゆっくりと、奎木狼と百花に優しく話しかける。
だが二人は顔を見合わせて話そうとしない。
「何故十年も行方しれずの宝象国の百花公主がここにいて、あなたと夫婦でいるのか……」
「えっ、キミたちの母上はお姫様なの?」
玄奘の言葉に驚いて玉龍が子どもたちに尋ねるが、子どもたちも知らないようで首を傾げている。
「ええと、その……どこから話したらいいのか……」
奎木狼は先程までの威勢はどこへやら。小さく縮こまり、視線を左右にうつして口ごもっている。
「それについてはこちらから説明しよう」
声が聞こえたと思ったら、ご来光が差し3人の煌びやかな衣装を纏った菩薩たちが降りてきた。
「妙見菩薩様、北斗七星様、南斗六星様!」
奎木狼は顔を青ざめさせ平伏した。
奎木狼の言葉に驚き、玄奘一行もその場に跪く。
妙見菩薩は雲の上から玄奘に声をかける。
「この生では初めまして、玄奘。この度は我が北辰宮のものが大変ご迷惑をおかけしました」
「いえ、とんでもございません」
恐縮して玄奘は平伏したままで応える。
「そんなに畏まらずとも良い。あなたのことは金蟬子の時からよく知っている」
「生死を司る我らはあなたをずっと見てきたのですよ」
南斗六星が妙見菩薩の言葉を継いで言う。
「さて──」
妙見菩薩は奎木狼の方に向くと、悲しそうに言った。
「奎木狼、お前は日々真面目に役職に励んでくれていた。だからこそこの世界でしばらく暮らすことを許したと言うのに……」
「やはり妙見菩薩さまは全てご存知でしたか」
「妙見菩薩様と相談して、お前の妻子の終焉までそっとしておこうかと思っていたのだが、まさか牛魔王に玄奘様を送ろうとするなんて……」
「やい奎宿、家族も持たせてやったのに何が気に入らなかったんだよ」
北斗七星は渋面でため息をつき、南斗六星が怒り顔で寿命が記された帳面を出して言う。
父親が責められていると感じた子どもたちは両親の裾を掴んでくっついた。
「北斗七星さま、南斗六星さま、子どもたちの前ですのでお手柔らかに……」
玄奘の言葉に二人はハッとして「しまった」という顔をした。
「妻と子どもたちと離れたくなかったのです」
奎木狼がポツリと呟くように言う。
「僕……いえ私は仕事から寮に戻る途中、不慮の事故で地に堕ちました。その時宝象国の公主である百花の出会い恋に落ちたのです」
「ねえあの人オチすぎじゃない?」
「コラ玉龍ちゃん、シッ!」
軽口を叩く玉龍を猪八戒が小声で嗜め、沙悟浄は苦笑して玉龍の頭をポンと撫でた。




