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深沙の想い白骸に連ねて往く西遊記!  作者: 小日向星海
【第十六章 気弱な星官と姫君の恋】
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【二百六十五 奎木狼、玄奘を虎へと変化させる】

 2人の子どものうち、姉と見られる月華が胸を張って「えへん!」と自慢げに玄奘に説明をする。


「おとうさまはすごい“じゅつ”をつかうのよ」


「術、ですか……あなた方のお父様は道士か仙人なのですか?」


 訊ねるとふたりはふるふると首を振った。


「お父さまは天のお役人さまだったの」


「お役人?」


 得意げに言う二人に、玄奘はおうむ返しすることしかできない。


 戸惑う玄奘に百花はゆっくりと近づいた。


「あなた様にはわたくしたち家族のために牛魔王の元へ行っていただきます」


「牛魔王……?」


 聞いたことのない名前だが、魔王とついているのだ。


 きっと危険な妖怪なのだろう。


 玄奘が無言でいると、百花は慰めるように肩に手を置いた。


「怖いのですか?大丈夫、夫に頼めば恐怖も何もかんじなくしてくれますわ」


「百花!」


 そこへ背の高い男が息を切らしながら飛び込んできた。


「おとうさま!」


 子どもたちは顔を輝かせて男にまとわりついた。


 彼は百花の夫であり、子どもたちの父親なのだろう。


「木狼さま!」


 木狼と呼ばれた男は玄奘から百花を引き剥がし距離を取らせた。


「お前たちまで……百花、ここで何をしている。危険だからきてはダメだと言っただろう?」


「わたくしはあなた様のお役に立ちたくて……」


「気持ちはありがたいが、こういう荒事は僕に任せて欲しい」


「あなたは……!」


 男の顔を見て玄奘はハッとした。


「あなたは私を呼び込んだお店の方ですよね?ここは一体どこなんです?早く弟子たちのところにも戻らないと……」


 玄奘が言うと、男はゆっくりと振り返って微笑んだ。


 笑顔だが、背筋の凍るような嫌な雰囲気の笑顔だ。


「そうですね。あなた様には大切なお役目を果たしてもらわねばなりません」


 男はそう言いながらゆっくりと玄奘に近付く。


「でも、まずは僕の大切な百花に近づいたことを罰させてもらいます」


「何を……!?」


「僕の名は奎木狼。玄奘、はたしてあなたは清廉な僧だと言えるかな?」


 奎木狼が手をかざすと、玄奘は一瞬で虎の姿に変えられてしまった。


 白い毛並みの虎だ。


「グルルォ……?!ガウ!」


 玄奘の言葉も虎の鳴き声にしかならない。


「しろいとらさんだ!!」


 星星シンシンがはしゃいで飛び跳ねる。


「怖いわ……お母さま、お父さまはどうしてお坊さまを虎にしたの?」


 悲しそうに質問をする月華ユエホアに、百花も夫の真意を汲み取れずに戸惑った笑みを浮かべるしかない。


 奎木狼は身をかがめて子ども達の頭を撫でた。


「なぜ虎になったのかって?それはこのお坊様が清廉ではないからだよ。心の清らかなお坊様であれば、虎になるわけがないだろう?」


 虎になった玄奘と目があった月華と星星は、怯えて父母の背後へと隠れた。


「あなたのうちにあるのは清廉なモノではなく荒々しい虎のような感情。本来仏に使える身のあなたが虎に変化してしまうとは、嘆かわしいことだ」


「グルル……」


 奎木狼の言葉に玄奘は俯いた。


 心当たりがあるからだ。


 その怒りの矛先は至らない自分に対してのもの。


(──情けない限りです)


「しかしこれほどの大きな虎になるとは。よほどの怒りでも抱えなければこのようになりませんよ……運びづらいったらありゃしない」


 奎木狼の予想では、玄奘の物腰柔らかな様子から変化してもせいぜい小さな小鳥程度だろうと思っていた。


 大きくても孔雀程度だろう、とも。


 だが彼の予想に反して玄奘は大きな猛獣に変化してしまい、内心どうやって牛魔王の元に運んだものかと考えあぐねていた。


「おとうさま、虎さんこわい……」


「おっと、檻もつけなくては危険ですね」


 娘の言葉にハッとした奎木狼はそういって、手を二回叩いた。


 するとあっという間に檻が現れ、玄奘はとじこめられてしまった。


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