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深沙の想い白骸に連ねて往く西遊記!  作者: 小日向星海
【第十六章 気弱な星官と姫君の恋】
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【二百六十一 玄奘、怪しい男に誘われ姿をくらます】

 白虎嶺を越え、玄奘たちは宝象国へと辿り着いていた。


「なんだか街全体が暗くない?元気ないよね?」


 玉龍が辺りを見回しながら呟く。


 玉龍の言う通り、街の人々の表情は暗くどことなく活気はない。


 作物が不作だったり、国を治める王が悪政をしいているわけでもなさそうだが、街の人たちの表情は明るくない。


 お酒を飲んでいる人さえ、背中を丸めてチビチビと飲んでいる人ばかりだ。


「まあ、元気ないのはこっちもだけどね……」


「こら、玉龍」


 玄奘をチラリと見て言う玉龍を猪八戒が嗜めた。


 孫悟空が一行から抜けてから玄奘はぼんやりすることが多くなった。


 猪八戒たちは玄奘に、孫悟空の破門を後悔しているのなら孫悟空を迎えに行こうと何度も言った。


 だが頑固な玄奘は意地を張りすぎて引くに引けない状況になっているのか、頑なに首を縦に振らなかった。


 そのくせ孫悟空から返してもらった緊箍児を未練がましく弄ぶのだから、弟子達は早くすなおになればいいのに、ともどかしく思っていた。


「お師匠さま、宿がみつかりました。参りましょう」


 そこへ、宿泊先を探しに行っていた沙悟浄が戻ってきた。


「お師匠さま?」


 ぼんやりとしていて沙悟浄に気づかなかった玄奘は、沙悟浄に呼ばれハッとして顔を上げた。


「ああ、沙和尚、どうしました?」


「お師匠さま……」


 上の空で沙悟浄の話をきいていなかったらしい。


「おシショーサマっ!」


 すると玉龍がさっと近づいて玄奘の手を取ると、落ち込んだ雰囲気を変えるよう明るく言って玄奘を立ち上がらせた


「今日の宿が見つかったってさ!行こ!!」


「ええ、ありがとうございます」


 玉龍の明るさに少し笑顔を取り戻し、玄奘は歩き出した。


「もし、そこのお坊様」


「私ですか?」


 そこへ、玄奘は突然声をかけられた。


 振り返ると片目に透明な円形の薄い板をかけた細身で長身の男がいた。


 男はスススと音もなく寄ってきて、玄奘の耳元にに顔を近づけささやく。


「何やらお悩みの様子。こちらで少し話していかれませぬか」


 男が指したのはこぢんまりとした一軒の店。


 だが品物などはなく、看板も出ていないのでなんの店かよくわからない佇まいだ。


「あの……でも私はこれから宿へ……」


「さあさあ、遠慮なさらずこちらへ」


 しつこい男の誘いになんとか抵抗していた玄奘だったが、男が玄奘の目の前に手をかざしたとたんに玄奘の表情は虚ろになり、なされるがままにこくりと頷いた。


「はい……」


「さあ、どうぞお入りなさい」


 そして玄奘は、勧められるがままに男が手招きする店へと入っていったのだった。



「あれ?お師匠さんは?!」


 宿屋に入ろうとした時、玄奘がいないことに気づいた玉龍が声を上げた。


「いつの間に……?!」


 沙悟浄は驚いた。


 玄奘の気配が消えたことに沙悟浄が気づかないはずがないのに、それどころか玄奘の隣にいた玉龍や前を歩く猪八戒まで一行の誰も気づかないなんて。


「クソっ!」


 猪八戒は辺りを見回して玄奘を探すが、行き交う人の中に僧衣の人間はいない。


 絢爛な袈裟を纏う玄奘は目立つ筈なのに、全く見つからない。


「玉龍、ちゃんとお師匠さんを見てないとダメだろう……!」


「待て猪八戒、玉龍を責める資格は俺たちにはない。俺たちも気づかなかったのだから」


 玉龍を責める猪八戒の前に立ち、沙悟浄が首を振った。


 猪八戒は沙悟浄の言葉にハッとして頭を掻いた。


「……確かにそうだな。悪かった、すまない玉龍」


「うん……大丈夫。でもおかしいよね。ボクたちの誰もおシショー様がいなくなったのに気がつかないなんて……」


「もしかしたらすでにオレたちは何者かの術中にハマってしまっているのかもしれないな」


 深刻そうにいう猪八戒に、玉龍と沙悟浄は顔を見合わせて頷いた。


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