【二十六、流沙河に現れた幼い兄弟】
流沙河の水辺。
削られて丸くなった小石が並ぶそこに、何かがぶつかり合う音が響いている。
それは硬い金属音と、鈍い打撃音で、河伯が刀剣罰の宝剣と棍棒で戦っている音だ。
日が滅多に差さないため、凍てつく寒さが常に支配する場所だと言うのに、河伯の体は汗だくで、うっすらと立ち上る蒸気すら見えるほど。
河伯は週に一度の刀剣罰相手に鍛錬していた。
今日は降妖宝杖を使わず、そこら辺にあるものでどこまで耐えられるか。
武器を奪われた時を想定した鍛錬だ。
なぜこんなに鍛錬をしているかというと──。
河伯は流沙河に落ちて以来、天界にいた時と違い討伐任務も鍛錬の機会もなく。
戦う機会といえば週に一度の刀剣罰くらい。
それ以外の日は完全な自由時間であり、久しぶりに休暇を手に入れたような気になった河伯は、毎日のんびり釣りをして食っちゃ寝食っちゃ寝を繰り返し過ごしていた。
そのため戦いに使っていた筋肉は急速に衰え、代わりに脂肪が重なっていったのだ。
そのうち刀剣罰に対しても、初めは鍛錬になる、とか考えていたくせに、しばらくして慣れてくると、さっさと腹を切らせればいいんだろう、と怠心を出して戦うことすら無くなっていた。
そんなある日、珍しく流沙河に人間の子供らが遊びに来た。
河伯は息を潜め、水辺で遊ぶ子どもたちの様子を伺っていた。
驚いたことに河に来たのは二人連れの子どもで、親の姿はなかった。
(親はなにをしている……)
驚きと怒りと心配から岩陰に河伯が身を潜めていると、二人の会話が聞こえてきた。
「ねえ兄ちゃん、お母ちゃん、このニョロニョロの魚食べたら元気になる?」
「当たり前だ!ここのうなぎは力になるって死んだ父ちゃんが言ってたんだから!」
子ども二人連れの理由がわかった河伯は驚愕し、二人の優しさとその置かれた厳しい環境に衝撃を受けた。
いますぐ鰲雷を呼んで河中の魚をあの子たちに
振る舞ってやりたい。
だが今の河伯は天将ではない。
部下でなくなった鰲雷を呼ぶことはできない。
河伯が己の無力さに悔しがっていたその時。
「うわぁぁ!」
「兄ちゃん!」
何かが落ちる水音と子どもたちの悲鳴が聞こえたので、河伯は慌てて人に変化して向かった。
そして流水河の深みにハマって溺れかけている子どもたちを抱き抱えると急いで河原まで泳ぎ着いた。
「大丈夫か、怪我はないか!」
「ゲホ、ゴホッ……!」
河伯は子供たちの背中をさすりながら尋ねる。
「あ、ありがとうございます……」
「おもちマン、ありがとう!」
咳き込みながらも兄は礼をいい、弟の方は目を輝かせていう。
「お、おもちマン……?」
聞き覚えのない呼称に河伯は目を白黒させた。




