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深沙の想い白骸に連ねて往く西遊記!  作者: 小日向星海
【第十四章 人参果の木と鎮元大仙】
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【二百四十五 孫悟空、鎮元大仙と義兄弟の契りを交わす】

 玄奘が目覚めると、そこはもう五荘観だった。


 驚いたことに玄奘たちが崑崙にいた間、人の世界ではすでにひと月経っていた。


 だから玄奘には崑崙で魔羅と戦ったことはまるで長い夢の中の出来事のように思えた。


「釈迦如来様を我が身におろしたとは……あれは夢ではなかったのですね」


 興奮気味に玄奘がつぶやく。


 魔羅から囁かれたあの時、玄奘は目を開きそうになったが、間一髪で「開けるな」という何者かの声がして、それから意識を失ったのだ。


 その後の顛末は孫悟空や沙悟浄たちから話をきき、玄奘は自分が釈迦如来の憑座となったことを知った。


「お前たちのおかげで崑崙は救われたのだ。誇るといい」


「いえ……当然のことをしただけですから」


 鎮元大仙は旅支度を終え、旅立ちの挨拶に訪れた玄奘たちに声をかけた。


「孫悟空、お前とは因縁があったが、崑崙を共に救った友として義兄弟の契りを交わしたいと吾輩は思うのだが、どうだ?」


「義兄弟〜?もちろん俺様が兄だよな?それなら契りを交わしてもいいぜ」


「これ、悟空!」


 孫悟空のそのあまりに不遜な態度に、玄奘があわてて孫悟空を嗜めるが、鎮元大仙は怒るどころか呵呵大笑した。


「かまわぬ」


「えっ、いいのか?」


「ああ」


 鎮元大仙の予想外の返答に、孫悟空のほうが困惑してしまう。


 そんな孫悟空を置いて、鎮元大仙はいそいそと盃に契りの果実水を注ぎ、孫悟空に手渡した。


「お前は玄奘殿の弟子。仏教では酒が禁じられているだろうから、酒に似た風味の果実水を用意した」


「お、おう」


 朱塗りの盃に注がれた透明な果実水からはほんのり酒に煮た甘い香りが漂ってくる。


「では、吾輩、崑崙が仙人鎮元と玄奘三蔵が一番弟子孫悟空の兄弟の契りを」


「め、契りを」


 上機嫌の鎮元大仙は詠うように朗々と宣言し、盃を掲げた。


 孫悟空もまた、鎮元大仙の言葉を反復し盃をが掲げる。


「命尽きこの身を失い魂となったとしても、吾輩は義兄であるお前を守ると誓う」


「待てよ!た、魂となったとしても、だって?!」


 その重い言葉に孫悟空は驚いた。


 普通であれば、命尽きるまでというところである。


「そうだ。命尽きてからも吾輩は義兄弟のお前と、その師である玄奘殿と旅の仲間をまもりつづけよう。これは崑崙を救ってくれたことの吾輩ができる一番大きな礼なのだ」


 鎮元大仙は孫悟空に力強くうなずいた。


 彼に二言は無いようで、孫悟空は困惑した。


 だがそれほどの決意を持って、鎮元大仙は義兄弟の契りを結んでくれようとしているのだ。


 鎮元大仙の気持ちにじぶんも応えたいと、孫悟空は思った。


「しゃーねーな!俺様も兄弟の契りを結んだお前と、この場所を守り続けるのを誓ってやるよ!」


「感謝する。では──これからの義兄ぎけいの旅路が平安であるように」


 そう言って鎮元大仙が盃をあおった。


義弟ぎていのこれからが安寧であるように」


 孫悟空もまた、そう言って盃に注がれた果実水を一気飲みした。


 こうして、孫悟空と鎮元大仙は義兄弟となった。


「まあ、吾輩が出ずに済むのが一番なのだがな。ちょっとした切り札と思ってくれていいぞ、義兄よ」


 大きく何かが変わったわけでもないが、元始天尊と太上老君に並ぶ仙人との縁は心強いものだ。


「えーっと、それじゃあ……いってくるぜ、義弟よ」


「はは、ちと照れくさいな。気をつけてな、義兄よ」


 孫悟空たちのぎこちない挨拶を微笑ましく思いながら、玄奘たちは五荘観を後にしたのだった。


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