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深沙の想い白骸に連ねて往く西遊記!  作者: 小日向星海
【第十四章 人参果の木と鎮元大仙】
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【二百三十七 魔羅の企みと如意宝珠】

 魔羅は沙悟浄の攻撃を受けながら、ほくそ笑んでいた。


「どうした、その程度か?大したことないな」


「血を吹き出し鱗をひび割らせながら何を言う!」


 魔羅の強がりとも取れる言葉に沙悟浄は攻撃の手を緩めない。


(ああそうだ、もっと怒れ、恨め、嘲るがいい!それがこちらの力になる!)


 魔羅は抵抗することなくその攻撃を受け続けた。


「悟浄、もうやめろ!おちつけ!」


 孫悟空が沙悟浄を魔羅から引き離そうとする。


 だが沙悟浄は孫悟空を振り解き、降妖宝杖を薙ぎ、突き、斬る。


「邪魔をするな!みろ悟空、もうすぐこいつを消し去れる!!はははは!!」


 ひび割れた魔羅の体を示し、高笑いしながら沙悟浄が言う。


 その表情は恍惚としていて、異様である。


「崑崙は、天界は俺が守ってきたんだ!捲簾として、こいつはたおさねばならない!」


「お前、もう捲簾大将じゃなくなっただろ!」


「ああそうだ!だが玉皇大帝への忠誠は消えぬ!それに、敬愛するお師匠さまの目に、こいつを、このおぞましいこいつの姿を映させるわけにはいかない!!」


 違うか?!ともうほぼ絶叫しながら沙悟浄はしがみつく孫悟空に構わず降妖宝杖を振り回す。


(いやお前も充分おぞましいわ!)


 孫悟空は血まみれの沙悟浄にそんなことを思いつつも口に出さず、沙悟浄を何とか止めようとする。


 だがあまりに激しいその動き、何度つかみかかってもに振り解かれ、突き飛ばされてしまう。


「っくそ、いい加減にしろ!」


 孫悟空は沙悟浄の懐に入り込むと、その胸ぐらを掴み、ぐいと引き寄せた。


「お前言っただろ!魔羅が心をなんかアレするって!自分がおかしくなってるのわかんねーのか!」


「──っ!」


 孫悟空の言葉に沙悟浄の動きが止まった。


 魔羅はビクビクと黒い血溜まりの中で痙攣をしている。


 むせかえるような瘴気と、動物や人のそれとは違う強烈な臭い。


 戻しそうになるほどの穢れに、孫悟空は思わず腕で口と鼻を塞いだ。


「玉龍!」


 孫悟空は一息で玉龍の名を叫ぶ。


 彼ならば孫悟空の意図を汲み取れるだろう。


「如意宝珠よ、ゴジョーとハッカイオジさんを正気に戻して!怛姪他タニャタ阿折麗アシャレイ阿末麗アマレイリテイ惡叉裔アキシャエイ……」


 玉龍は如意宝珠を掲げ、願いを込めて呪文を唱えた。


 八爪金龍から教わった、如意宝珠の力を高める呪文だ。


 玉龍の如意宝珠は金色の光を放ち、猪八戒と沙悟浄を包んだ。


 猪八戒の虚な目に光が戻り、沙悟浄の表情もいつもの冷静なそれに戻った。


「お、俺は……」


「魔羅の瘴気に当てられたんだよ。悟浄、もう大丈夫か?」


「ああ……すまない、俺としたことが」


 孫悟空に気をつけろと言った自身が惑わされ、沙悟浄は情けなくなった。


「いつまで乗っているのだ貴様ら、退け!」


 血溜まりに倒れていた魔羅が身を捩り、沙悟浄と孫悟空を弾き飛ばした。


「おっと!」


 急に弾かれた孫悟空と沙悟浄は、駆けてきた猪八戒に抱き止められた。


「二人とも大丈夫か?すまなかったな、なんかオレもおかしくなっていたみたいで」


「全くだぜ!お前ら二人とも狂ったかと思ったんだからな」


「悟空、お前は平気なのか?」


「平気なもんか!昔じいちゃんからもらってたお守りがなかったらオレも狂ってたかもしれねえ」


 そう言って孫悟空は胸元を押さえた。


 そこにお守りがあるのだろう。猪八戒と沙悟浄は、ほっとして顔を見合わせた。


「三人とも、如意宝珠の守りで瘴気に惑わされないようにしたよ!でもこれはあまり長く持たないから、早く仕留めてよね!」


 玉龍が叫ぶ。


 魔羅が怖いのか、玉龍はいまだにピッタリと玄奘に張りつき、如意宝珠を掲げている手は震えている。


「仕留めるだと?」


 玉龍の言葉に魔羅が反応し呟いた。


「ヒッ!」


 魔羅の全てが恐ろしいのか、玉龍は悲鳴をあげて玄奘の後ろに隠れる。


「ははははは!」


 そして魔羅は体をくねらせ大爆笑を始めた。


「この吾を仕留める!ははは、傑作だな!」


 魔羅が体を動かすたびに、傷口からは黒い血が吹き出す。


「何笑ってんだよテメェ!」


 孫悟空の問いに魔羅はぴたりとその動きを止めた。


 そして黄色に赤の目を細め、クツクツと心底おかしそうに笑いを堪えながら口を開いた。


「もう遅い!全て遅いんだよ!!貴様らの恐怖、怒り、嘆き、嘲り、怨嗟、驕り!それらがを、いやを!魔羅の分身である余をこの眷属の蛇の体から完全なる姿に変化させるまでになったのだ!」


 そう言って魔羅は鎌首を天に向け声高に叫んだ。


 ひび割れた魔羅の体から血とは違う、どす黒い瘴気が噴き出す。


「ぐっ!」


 玉龍の結界のおかげでまた操られることはないが、見ても気持ちのいいものではない。 


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