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深沙の想い白骸に連ねて往く西遊記!  作者: 小日向星海
【第十四章 人参果の木と鎮元大仙】
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【二百三十 玄奘、崑崙の地に降り立つ】

 玄奘は清浄の間に足を踏み入れ、その名とかけ離れた部屋の様子に言葉を失った。


 そこには瘴気が充満し陰鬱としていて、呼吸をするのもしんどいほどだ。


 目の前は瘴気のモヤではっきりせず、ただ黒い大きな塊が奥にあるのが見えた。


 あれが魔羅なのだろう。


 経典や書物でしか見たことのない魔羅が、この向こうにいるとおもうと、玄奘は恐怖を感じると共にほんの少しの興奮を感じていた。


 一体どんな見た目なのだろうか、経典にあった通りの様相なのだろうか。


 そんな風に考えを巡らしたのも一瞬のことだった。


 あまりに濃い瘴気に、意識が朦朧としてきたのだ。


(これはキツイですね……)


 玄奘は袖で口元を覆い、なるべく瘴気を吸わないように用心した。


「お師匠さま、大丈夫ですか?」


 沙悟浄が玄奘を気遣う。


 沙悟浄は玄奘より瘴気に慣れているようで、平然としている。


 かつて流沙河で瘴気にまみれたことがあるからだろうか。


 玄奘は声を出すのも辛いくらいだったのだが、彼に心配をかけまいと何とかこくりとうなずいた。


「あーあ、清浄の間の名が泣くくらい酷い有様だねこりゃ」


 猪八戒は呆れたように手を扇代わりにして周囲の瘴気を仰いで散らしながら言う。


「玄奘、大丈夫か」


 准胝観音が駆け寄る。


「九重の錫杖を地に突け。結界が張られる」


 玄奘は准胝観音に言われた通り、錫杖を床に突いた。


 錫杖の輪が触れ合い、シャン、と涼やかな音が響き、光の輪が波紋のように広がる。


 光の輪が触れた瘴気はすぐに消滅し、息苦しさも無くなった。


「准胝観音様、私は何をすれば良いですか?」


 ほっと息をついて玄奘は准胝観音に尋ねた。


「そうだな……玄奘、お前はひたすらに呪文を唱えつつ錫杖を鳴らせ。魔羅の連れている蛇は金属音を嫌う。それに浄化の力を持つ音でもある。マルティヤ・クヴァーラの時と同じだよ」


「承知しました」


 准胝観音に返事をして、玄奘はすぐに錫杖を鳴らして呪文を唱え始めた。


「さて……沙悟浄と猪八戒は玄奘を守れ。妾は前線に行く」


 沙悟浄はこくりとうなずき、猪八戒は手を振った。


「わかった。准胝ちゃん、気をつけてね」


「ああ。おまえたちもな」


 准胝観音は猪八戒に頷くと観音菩薩の方へと駆けて行った。


 その途中、玄奘に気づいたらしい観音菩薩がすごい形相で准胝観音に向けて駆けてきた。


「姉上、玄奘を連れてきたのですか?!一体何を考えて……!」


「玄奘の浄化の力は群を抜いている。戦力は多いに越したことはないだろう」


「しかしですね……!」


「玄奘は対魔羅への切り札になるだろうと妾は考えている。お前にもわかるだろう?」


「わかっています。わかっていますけど……っあ〜も〜、姉上〜!!」


 玉果である玄奘の存在を魔羅に気づかれるのは危険なことで、観音菩薩としてはこの戦いに玄奘を巻き込むのは避けたいことだった。


「まあまあ、いいじゃないですか」


 姉弟喧嘩が始まりそうな二人のところへ普賢菩薩がやってきて、宥めるように言った。


「左様。あのお方のおかげで某たちもだいぶ楽になり申した」


 文殊菩薩も胸に手を当て呼吸が楽になったと仕草を加えて言う。


「今はほら、元始天尊さまから魔羅を引き離さないと。でしょう?」


 二人に止められ、観音菩薩はバツの悪そうな顔をした。


 准胝観音は勝ち誇ったように、二人は准胝観音の味方だぞと言わんばかりに観音菩薩をみる。


「それじゃあサクッといきますか!」


 普賢菩薩が呉鉤剣の切先を魔羅にむけ、構えて言った。


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― 新着の感想 ―
[一言] 書物でしか見たことがないような怪物が実際に現れたら、それを期待するのはなんとなくよくないことだとわかりつつも、僕も多分期待するだろうな、と思いました。 でも、瘴気はかなりきついみたいで…。な…
2024/06/25 08:01 退会済み
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