【二百十五 帰還した悟空、人参果に須菩提印の時空甘露水をかける】
孫悟空は玄奘の近くに飛び降りた。
「悟空!よく無事に戻ってきてくれました!」
「あれ、お師匠様やつれてません?ちゃんと食べていましたか?」
「むう、誰のせいだと思ってんのさ、ゴクウ!」
孫悟空の言葉に玉龍が腰に手を当てて反論する。
「なんだ、思ったより早かったな。もっと崑崙でゆっくりしておれば良いのに」
「あっちで呑気にしてたらこっちではあっという間に百年過ぎちまうだろーが!そんなことするかよ!」
残念そうに言う鎮元大仙に、とんぼ帰りをしてきたのだと孫悟空が怒鳴る。
鎮元大仙は懐から扇子を出し、パタパタと仰いだ。
「して、人参果を蘇らせる方法は見つかったのか?」
「ああ、もちろん!今届くから待ってろよ」
「ん?届く?」
孫悟空の言葉に鎮元大仙が首を傾げる。
その少し後、雲に乗った准胝観音と奇妙な服装の少女が五荘観に降り立った。
「鎮元大仙!この度は妾の紹介したものたちがとんでもないことを……!」
「准胝ちゃん!」
准胝観音は雲から飛び降り、鎮元大仙の元に跪いた。
猪八戒は驚いたが、状況が状況だけに喜べない。
「准胝観音、気にすることはない。そのままでは汚れてしまう。たちなさい」
鎮元大仙は優しくそう言って准胝観音に手を貸し立ち上がらせた。
「それよりも、吾輩はこいつを連れてきた理由を知りたいなぁ、孫悟空?」
鎮元大仙は、眉間の皺をほぐしながら大きなため息をついた。
「やっほ、鎮元大仙。壮健そうで何より」
准胝観音の後ろにいた少女は、片手をあげ親しげな様子で鎮元大仙に話しかけた。
「やあ、これは須菩提。相変わらず……いや、以前よりトンチキな格好をしておるな。なんだそのフリフリぶりぶりした格好は」
「えへ、カワイイでしょ?哥特蘿莉時尚って言うんだよ。未来でみつけたんだ!」
眉間に皺を寄せる鎮元大仙の反応をものともせず、少女はくるりとその場で回ってみせた。
桃色のひだのついた、ふんわりとした膨らみのある小花柄の裙子が風に揺れる。
首から下げた派手な色の大きな玉飾りがついた二連の首飾りがふれあい、ガチャガチャと音を立てた。
「はぁー……時空移動はほどほどにしないと、戻って来れなくなるからな……」
「大丈夫だって!そしたらあっちで楽しく暮らすから、モウマンタイ、モウマンタイ!」
「はぁ〜……」
鎮元大仙は須菩提祖師に対して大袈裟にため息をついてヤレヤレと首を振った。
玄奘たちは不思議な姿の少女に呆気にとられている。
「ん?まってゴクウ、いま須菩提祖師って言った?この子が?」
「ああ、あれがうちのじいちゃん!」
「えっ、じいちゃん?えっ、男の人?!」
玉龍が孫悟空と少女を交互に見て尋ねる。
どう見ても十代……というのは仙人である前提から数字は関係ないと言えるが、准胝観音と姉妹と紹介されたら納得しそうなほど“孫悟空のじいちゃん”からのイメージからかけ離れた容姿だ。
「初めまして、ウチは須菩提。みんなからは須菩提祖師って呼ばれてるヨ!そしてなんと悟空にしこたま術を教え込んだじいちゃんだよ。イエイ!」
須菩提祖師は目のそばで指を2本立てて片目をつぶって自己紹介をした。
「えへへ、悟空のお師匠様と仲間たちがみたくてついてきちゃった!いつもウチのチビザルちゃんがお世話になっております〜」
「は、はあ……こちらこそ……」
須菩提祖師の勢いに圧倒され、玄奘はお辞儀を返すのがやっとだ。
「なんだか玉龍に似てるな……」
「あ、ああ……」
キャッキャとはしゃいで言う須菩提祖師に、猪八戒と沙悟浄は呆気に取られている。
今まで名前しか聞いたことのない伝説級の仙人のイメージとまるで違う。
「いい加減そのくだらぬ口を閉じよ須菩提。して、孫悟空よ本題だ。戻ったのならば人参果を蘇らせる方法を示してみよ」
鎮元大仙が孫悟空に言うと、准胝観音が深い藍色をした瓶を木箱から取り出した。
「これだぜ!みとけよ鎮元大仙!」
孫悟空はその瓶を准胝観音から受け取ると、人参果の切り株にドボドボと回しながらかけた。
「なんだ、ただの甘露水ではないか。そんなもので元に戻るわけが……」
しかし、鎮元大仙が言い終わらないうちに、人参果の切り株に変化が起きた。
みるみるうちに切り株から新芽が生え、あっという間に背を伸ばしていく。
そして幹は太くなり葉を茂らせ、ついに人参果をたわわに実らせた。




