【二百十一 鎮元大仙、人参果復活までの期日を示す】
そして、鎮元大仙は突然笑い始めた。
「吾輩はこんなに妖怪たちから慕われる人間は初めてみたわ。やはり玄奘殿が玉果だからかな?」
その言葉に孫悟空がムッとして言い返した。
「玉果とか関係ねぇよ!俺様たちはお師匠様だから慕ってんだよ!人間たちが怖がるような見た目の俺様たちでも、全然普通の人間と関わるみたいに接してくれるし、ビビらねえし、むしろ普通すぎてこっちがビビるくらいだし!」
「そうそう、オレが豚頭になっても全然怖がらないもんねえ」
こんなに不気味なのに、と猪八戒が元の姿になって笑う。
「ボクだって変化が未熟なのにツノも耳も怖がらないし、おシショー様は優しいからボク大好きだよ!」
「俺の見た目も以前から自然と受け入れてくれましたよね。あの時は釣り仲間ができて、すごく嬉しかった……」
沙悟浄のいうあの時というのは、過去世の馮雪であった時のことだろう。
藍色の肌に金の瞳、燃え盛るような赤い髪。
一行の中では一番の異形でもある沙悟浄は微笑む。
「やい鎮元、お師匠様は無力でもなんでもねえ。あんたに比べたら赤子みたいな年しか生きてねえかも知れねえけど、ずっと強いしすげえんだ!上手く言えねえけど、今のままでお師匠様は充分強いし、俺様たちはお師匠様のことが大事だから守りてえ!」
「悟空……皆さん……!」
玄奘だって本当はこんなところで食べられて終わりになりたくない。
玄奘は鎮元大仙を見上げた。
そして鎮元大仙は不敵に笑い、乾いた拍手をした。
「おやおや、熱のこもった素晴らしい解説どうもだね。ではその絆に免じて人参果を元に戻したら玄奘殿はお返しして差し上げよう」
そんなこと出来るものならね、とあくびを噛み殺しながら鎮元大仙が言う。
「期日は……そうだな、三日もあれば良いだろう」
「三日?!一万年かかる植物をたった三日で?!」
鎮元大仙の示した期日に誰もが頭を抱えた。
「大切なお師匠様のためならできるのであろう?やって見せよ」
鎮元大仙はニヤニヤと笑いながら言う。
「よし、とにかく悩んでいる暇なんてねえ!俺様はこれから蓬莱山に行ってみる。もしかしたらジイちゃんが帰っているかも知れねえからな!」
「そうだ、蓬莱山に行くならば、そこに万物の命を司る福、禄、寿という三仙がいると聞いたことがある。あちこちうろついてる須菩提祖師を探すよりそちらの方が早いかもしれん」
「福と禄と寿ね。じいちゃんとそっち、どっちも探してみるわ」
沙悟浄の言葉に孫悟空は頭をトントンと指で叩いてその名を入れ込んだ。
「なあ悟空、オレも一緒に行くぞ。お前は須菩提祖師、オレが福禄寿三仙を探した方がいいんじゃないか?」
「いや、八戒たちはここでお師匠様を守っていてくれ。急いで戻るから、頼んだぞ!」
そう言って孫悟空は猪八戒たちに玄奘を託し、觔斗雲に乗って夜空に飛び出して行った。
「悟空……」
玄奘はあっという間に星々煌めく空に飛び込んでいった孫悟空を見送りながら無事を祈った。
「よし、では、一眠りするとするか。玄奘殿も疲れているだろう。眠るといい」
「えっ?」
そう言って鎮元大仙は持ってきた枕に頭を乗せてそのまま横になった。
このまま実験台とかにされるのではと思って身構えていた玄奘たちは拍子抜けした。
「えっ、チンゲンさん、ここで寝るの?」
「もう吾輩は眠くて限界なんだよ。部屋に戻る力もないわ。とにかく寝かせておくれ。お前たちも眠れ。うるさくて敵わん」
玉龍の問いに鎮元大仙は上衣をぬいで体の上にかける。
完全に寝る姿勢だ。
「いえ、私は悟空が戻るまで起きています」
孫悟空が必死で人参果を復活させる方法を探しているのに、眠ってなどいられない。
「オレたちだって」
鎮元大仙とのやりとりですっかり目が冴えてしまった猪八戒も沙悟浄も玄奘に同意して頷く。
「あっそう。じゃあ静かにしていろよ。それから、この五荘観から逃げるなんて思うなよ。吾輩はお前たちなんてすぐ捕まえられるんだからな……ぐぅ」
薪割りや草むしりでもしていろ、と沙悟浄たちの縄を解いて鎮元大仙は眠りに落ちてしまった。
よほど疲れていたのか、大きないびきをかいている。
時折うなされて歯軋りまではじめている。
「うう、チンゲンさんうるさすぎてどっちにしろ眠れないじゃん……歯ぎしりやばすぎ。もう外に出ようよ。人参果の切り株で色々試そ」
耳を塞ぎながら玉龍は道場の外を指した。
「そうですね……」
玄奘たちは薄暗い庭へ出て、人参果復活のための方法を考えることにした。




