【二百五 玉龍、疲労から駄々をこねる】
ガサガサと枝葉をかき分け、孫悟空の先導で玄奘たちは万寿山の中をひたすら進んでいた。
「ねえ、ボクもう限界なんだけど……」
音を上げた玉龍が、傍にあった岩にもたれかかって言う。
「もう夜も遅いし、この辺りで休もうよ〜」
「だめだ。最低でもこの万寿山から抜けねえと。ここは鎮元とかいう仙人の縄張りだからな」
孫悟空が玉龍を岩から引き剥がしていう。
だが玉龍も負けじと岩にしがみついて孫悟空に聞いた。
「それってあとどれくらい?」
「えっ、どれくらいって……」
「あとどれくらいでこの山を抜けられるの?」
「し、知らねえよ!とにかく夜が明けるまでにここを抜ければ大丈夫だろ」
「ムリ〜!歩けない〜!」
一歩も動けない、と玉龍は岩にしがみついた。
「ったく、仕方ねえなぁ……ほらおんぶしてやるから」
「えー……おんぶなんて恥ずかしくてやだよぉ〜。ボク、こう見えて千歳なんだよ」
玉龍は座り込んで抵抗する。
「悟空、やはり戻りましょう。私は、このまま逃げることはできません!」
「お師匠様まで!」
玄奘も玉龍の隣に腰を下ろして動かない意思を示した。
「どうする……?」
怒り狂った仙人の恐ろしさを身をもって知っている孫悟空、猪八戒、沙悟浄は顔を見合わせた。
「あそこに戻るにしろ進むにしろ、ボクはもう動けないからね!それにこんな夜にボクたちを見つけられるわけないじゃん。休もうよー!」
「私もあなた方が五荘観に戻ると言うまで動きませんからね!」
完全に駄々をこね出した玉龍に玄奘も便乗する。
「……はぁ、もう、わかりました。ここで休みましょう。戻るかどうかは明日話し合いましょう」
根負けした孫悟空がそう言い終わらないうちに、玉龍は寝息を立て始めていた。
「さあ、私たちも休みましょう」
玉龍に上掛けを掛けながら玄奘が言う。
孫悟空たち三人は不安を感じながらも、師に従うことにしたのだった。
鎮元大仙は雲に乗り、万寿山の上空から玄奘たちを探していた。
万寿山は鎮元大仙の体の一部のようなもの。
夜の暗闇の中、木々に隠されていようと孫悟空ほどの力の強い妖怪の気配を探るなど造作もないことだ。
しかも玄奘の周りには孫悟空に加えて龍王の第三子と天蓬元帥、捲簾大将、と呼ばれた天界の武人がついている。
そして玄奘自身が玉果という特殊な性質を持っている。
「みいつけた……!」
一行の気配を掴んだ鎮元大仙は、ニタリと笑んでサッと印を組み、上衣を脱いだ。
「疾!袖裏乾坤!」
呪文を唱えると同時にそれを放ると、上衣は瞬く間に広がり、玄奘たちを飲み込んだ。
「わっ!」
「何だ?!」
袖の中からは慌てて混乱している一行の声が聞こえてくる。
「はっはっは!大漁大漁!」
鎮元大仙は上衣を引き、ひとまとめにすると五荘観へと戻って行った。




