【二百三 玄奘一行逃亡する】
【二百三 玄奘一行逃亡する】
部屋に鍵をかけられ、せっかく用意された食事を無駄にするのも勿体無い。
食欲がまだわかない玄奘だったが、どうせ鎮元大仙が戻るまで閉じ込められているのだ。
そう思った玄奘が料理に手をつけようとしたその時。
再びガチャリという鍵の音がした。
「お師匠様、逃げましょう」
いつのまにか鍵をあけたのか、孫悟空が扉を開けて言った。
「あなた、いつの間に?」
「こんな鍵開けるのなんて朝飯……いや今は夕飯か。夕飯前ですよ」
驚く玄奘に、褒められたと勘違いした孫悟空が得意げに言う。
「馬鹿なことを言っていないで閉めなさい。これ以上罪を重ねる気ですか」
「そうだよー!ゴクウたちのせいでボクたちまで巻き込まれてるんだからね!」
「いえ、今回は悟空の言う通りです」
「ここは逃げの一択です」
猪八戒と沙悟浄も荷物をまとめながら言う。
「八戒、沙和尚まで何を!」
玄奘が驚いて言うと、猪八戒と沙悟浄は顔を見合わせて頷いた。
「鎮元大仙は相当な力の強い仙人です。あの仙人に今回のことが知れたら絶対ただではすみません」
猪八戒は「絶対」に力を込めて言う。
「仙人と言う存在は、人の常識など通用しません。永く人の世とは隔離された場所で暮らしているからです。そして、謝れば許してもらえるなど、そんな甘い存在ではありません」
沙悟浄も言う。
「ましてや今回は、鎮元大仙が長い期間育ててきた大切な木を切り倒してしまったのです。何が起こるか予想がつきません」
藍色の肌をさらに青くして沙悟浄が早口に言う。
「でもこのまま謝罪も何もせずに逃げると言うのは……」
「いえ、ここは逃げるが勝ちです。絶対に逃げるべきです。俺様の觔斗雲なら絶対逃げ切れますから」
孫悟空は力強く言う。
「ボクはムリだと思うケド……」
玉龍はスープを飲みながら呑気に言う。
「あのうるさい弟子たちは全員術で眠らせました。今すぐ逃げましょう」
「あっ!」
孫悟空は玄奘を抱え、沙悟浄と猪八戒は荷物を抱えて部屋の外へと飛び出した。
「あっ、待ってよ!」
玉龍も慌ててスープの器を置いて後を追いかけたのだった。
鎮元大仙が五荘観に着いた時、日は暮れ夜を迎えていた。
五荘観の様子に鎮元大仙は違和感を覚えた。
「灯りが一つも付いていない……どう言うことだ?」
いつもであれば灯りがついているはずなのに、五荘観が真っ暗なのだ。
玄奘を出迎えもてなすよう言いつけておいたのに、宴会もせずにいるとは、弟子たちの性格からは考えられなかった。
「何があった……?」
妙な胸騒ぎを覚えた鎮元大仙は、襲撃に備えて印を組み五荘観の中に飛び込んだ。
五荘観の中は真っ暗で、鎮元大仙は術で光を浮かべた。
「なっ……!」
そこで鎮元大仙が見たのは、彼の四十八人の弟子たちが全員床に突っ伏して眠っている姿だった。




