【二百 孫悟空、逆ギレして人参果を切り倒してしまう】
部屋を飛びだした孫悟空が向かった先は、人参果の木だった。
「この猿め!人参果の木から離れろ!」
先に追いついた月亮と風舞が、人参果の根元にいる孫悟空に向かって怒鳴る。
「悟空!」
後から追いついた玄奘も荒い息を整えながら叫んだ。
「こんな木……っ!」
そう呟くと、孫悟空は人参果の木を近くにあった斧で切り倒してしまった。
「ああああああああーーーーーーっ!!!!」
鎮元大仙の弟子たちと玄奘たちの絶叫があたりに響いた。
切り倒された方の人参果はボロボロと崩れてあっという間に土になってしまった。
残ったのは切り株だけ。
「はんっザマアミロってんだ!」
孫悟空は気が晴れたとばかりに斧を放り投げて頭の後ろで腕組みをした。
「な、な……なんということを!!」
「育てるのに一万年近くかかる人参果の木を……!」
「鎮元大仙に知られたらとんでも無いことになる……」
「どうしよう……」
鎮元大仙の弟子たちは不安げな表情で顔を見合わせている。
中には鎮元大仙の怒りを想像したのか、そのあまりの恐ろしさに泣くものもいた。
「悟空、なんと言うことを!月亮様、風舞様、鎮元大仙様にどうお詫びしたらいいのか……」
玄奘には頭を下げることしかできない。
まさかここまでおおごとになるとは、と猪八戒と沙悟浄も呆然としている。
「ボクの如意宝珠でも、これは治せないよ……」
スッパリと切られた切り株を見て、玉龍は項垂れて言う。
月亮と風舞は、そっと玄奘の肩に手を置いた。
「玄奘様、顔をおあげください」
玄奘が顔を上げると全てを諦めたかのような二人の顔があった。
「こうなってしまってはもう我々が判断することはできません。鎮元大仙のお帰りを待ってご判断を仰ぐしか……」
「我々も頑固なところがありました。こちらの至らなさも原因の一つです」
「そんなことはありません。悪いのは全て私の至らなさにあります」
玄奘の言葉に二人は首を振った。
「とりあえず部屋に戻ってください。まずはお食事を。あなたのお弟子さんが腕によりをかけて作ってくれたお料理も一緒にお持ちしますね」
そう言って、月亮と風舞は玄奘たちを部屋に戻した。
「ああ、どうしよう……」
玄奘たちを見送り、人参果の切り株に残った月亮と風舞は頭を抱えた。
下界での人参果の栽培は、鎮元大仙の悲願だったこと。
このことを知れば深く悲しみ烈火の如く怒るであろうことは容易に想像がつく。
ましてやその原因が孫悟空であれば、再び崑崙山を揺るがす戦いに発展する可能性すらある。
かつて太上老君の八卦陣をやぶり、今度は鎮元大仙の人参果を切り倒したのだ。
崑崙三大仙人のうち二人も孫悟空に煮湯を飲まされたことになる。
「ああ……頭が痛い……」
「とにかく、鎮元大仙がお戻りになるまで奴らが逃げないように部屋に鍵を掛けておこう」
額に手を当てて今にも倒れそうになっている月亮の肩を支えて風舞が言う。
「そうだな、我々にできることはもうそれしかあるまい」
月亮は風舞の手を借りながら部屋の鍵を取りに向かったのだった。




