【百九十七 元始天尊の不吉な予言】
ゴロンと出てきた人参果を、元始天尊と太上老君はまじまじと眺めた。
「崑崙のよりいささか小ぶりではあるが、確かに人参果だなぁ」
「人数分持ってきたんだ。食べてみよう」
そう言って鎮元大仙は二人に勧めた。
「ではありがたく」
「いただこう」
二人が食べたのをみて、鎮元大仙も人参果を齧る。
じゅわっと果汁が口の中に広がる。
林檎のような、梨のような。その二つの間のような味がする。
瑞々しくて甘酸っぱい、崑崙の人参果とは少し違う味だ。
「うむ、やはり味は崑崙産のものよりは劣るが、これはこれで美味だなぁ」
「わしは甘いものは好かんから、こっちのサッパリした方が好みだ」
「この果実を酒にしたらどのような味になるのか、いやはや気になるな」
「元始天尊、お主はすぐ酒酒と。少しは慎むべきだぞ」
二人の評価も高いので、鎮元大仙は笑顔になった。
「どうだ、元始天尊。お前が無理だと言った人参果を、吾輩は人間界でも実らせてみたんだぞ」
鎮元大仙が言うと、元始天尊は頷いた。
「さすがだな鎮元。ところでその下界にある木には今も人参果がなっているのか?お前のところにあの猿が来ているのだろう?食い散らかされていなければいいがな」
「さっきといい今といい、不吉なことを言うんじゃないよ元始天尊」
鎮元大仙は苦虫を噛んだような顔をした。
「多分大丈夫だろ。准胝観音からの手紙によると、あの猿は人間の師匠や弟弟子、准胝観音たちと共に異国の人食い化け物を倒したとあった。さらにかなりその人間の師匠を慕っているようだ。その師匠が困ることをするとは思えんよ」
少し不安はあるが、鎮元大仙は准胝観音からの手紙で大丈夫だと判断したのだ。
「あの石猿がそんなに変わったのか?信じられぬ」
太上老君が手についた人参果の果汁をペロリと舐めて言う。
「まあ、人参果は玄奘殿にだけ差し上げるよう弟子にもいってある。吾輩の弟子たちは優秀だからな。大丈夫だよ」
そうは言いつつも、鎮元大仙はだんだんと不安になってきた。
(大丈夫だよな?大丈夫、大丈夫……)
冷や汗が背中を滴り落ちる。
不安を取り去ろうと、鎮元大仙は人参果の残りを口に放り込んだ。
「そうだ、二郎真君から聞いたのだがな、その玄奘という人間はなんと玉果であると聞いた。元始天尊、それは事実なのか?何か知らぬか?」
「うむ……まあ釈迦如来からそこそこ聞いておるが、吾らには関係のないことだと思って聞き流しておったからな」
(こいつ、すっとぼけおって)
太上老君の問いかけに、元始天尊がニコニコとはぐらかすような言い方をするので、鎮元大仙と太上老君は顔を見合わせた。
「しらばっくれおって。その玄奘なるものが玉果であることは二郎真君も見抜いておった。わしも天帝から聞いておる。もしもの時は力を貸せと言われておるからな。天帝が知っていることの詳細をお前が知らぬわけがないではないか」
「えっ?太上老君も知っているのか?」
太上老君の言葉に思わず鎮元大仙は身を乗り出した。
「鎮元は下界におったから知らんのは仕方なかろう」
「いやでも……!」
今までも会合を開く機会はあった。その時にはすでに2人は知っていたはずなのに。
「貴様ら、吾輩を仲間外れにしたな!」
「何を言う。こちらとあちらでは時の流れが違うだろう。仲間外れにしたわけではない。話す必要もなかっただけだ」
元始天尊の言葉に太上老君も同意をするように頷く。
「ぐぬぬ……納得いかぬ!」
鎮元大仙は拳を握って悔しそうに唸った。




