【百九十一 玄奘、一言もの申す】
玄奘は慌てて孫悟空をとめた。
「悟空、まったくもう、失礼ですよ!」
「別に猿は来なくても良いぞ。我らは玄奘様だけで構わぬのだから」
「え?オレと悟浄ちゃん、玉龍ちゃんも無視されてる感じ?」
「なんだよ!やな感じー!ぶーぶー!」
風舞の言葉に猪八戒と沙悟浄は困惑したように顔を見合わせ、玉龍は頬を膨らませた。
「いや龍神殿は別だ。そこの猪豚男と大男と猿はここで留守番していていいんだぞ」
風舞が嫌味ったらしくそう言うと、猪八戒と沙悟浄はムッとして、孫悟空は悔しそうに唸った。
「俺はお師匠さまから二度と離れないと誓ったのだ。離れるわけにはいかない」
「オレもぜーったいお師匠さんから離れないもんね!なー悟空もそうだろ?」
「当たり前だ!お師匠様一人でそんな怪しいところに行かせるわけにいかないだろ!仕方ねえから行ってやるよ。ホレさっさと案内しろ」
「こら、孫悟空、そんな言い方がありますか。申し訳ありません、月亮様、風舞様。それではお言葉に甘えてほんの少し、お邪魔させていただきます」
孫悟空の調子がピリピリしているので、五荘観とやらには長居はすまいと決め、玄奘は2人の童子につげた。
「それから一つ、お二方にお願いがあるのですがよろしいですか?」
玄奘はにこやかに二人の童子に言った。
「なんでしょうか」
月亮がたずねる。
スッと、玄奘が表情を引き締めた。
弟子たちのために師として、言わなければと思ったからだ。
崑崙の三大仙人の一人である鎮元大仙の弟子にたかが一坊主が意見をするなどとは思ったが、大切な弟子たちを蔑ろにされて黙っていられるほど、玄奘は穏やかな人間ではない。
「恐れ入りますが、私の大切な弟子たちを嘲るような言い方はお控えくださいますようお願いいたします」
未熟者と言われても結構。
それほど、彼らの孫悟空たちに対する態度は玄奘にも腹に据えかねるものがあった。
「お師匠様……」
孫悟空たちは玄奘の言葉に驚いた顔をして師を見た。
玄奘はまっすぐに月亮と風舞をみて視線を外さない。
やがて月亮と風舞は無表情のまま、互いに目配せをして、それから表情をやわらげ頷いた。
「ふむ……まあ其方のお弟子さんたちの態度次第だが、承知した。我々も気をつけよう」
「あぁ?」
風舞がまた偉そうに言うので一瞬飛びかかりそうになった悟空だったが、玄奘のためにそれは踏みとどまった。
「皆も、特に悟空も、鎮元大仙とそのお弟子様たちに失礼な態度は取らないように気を付けてくださいね」
「はい……」
「承知しました」
「りょーかいです」
「わかったー!」
むくれながら孫悟空は頷き、沙悟浄たちも頷く。
「では玄奘ご一行様、改めまして五荘観にご案内いたします」
月亮と風舞の先導で、玄奘たちは霧深い万寿山の中を進んで行った。
玉龍も馬から元の姿に戻り、みんなで歩いていく。
やがて、霧が晴れた先現れたのは、桃源郷もかくやと言わんばかりの見事な花々が咲き誇る庭園であった。




