【百八十五 准胝観音と瑤姫、玉瑞館の真相を語る】
箱庭型模擬遊戯宝貝は、その名の通り箱庭の中に入って遊ぶことのできる道具だ。
仙人たちの暇つぶしにと太上老君が作ったもので、玉瑞館という山中の宿屋を舞台に自由に行動して遊ぶことができる。
箱庭に入った者の行動によっては、恋愛路線や神秘路線、死亡遊戯路線に分岐する複雑なものだ。
もちろん、恋愛無しの、寂れた玉瑞館を盛り立てる商人路線もある。
「驚いたわ、准胝ちゃんたら突然、模擬遊戯のできる道具はないかと来るんだもの」
瑤姫は茉莉花茶を淹れながら笑う。
「いやだいぶ前に崑崙で流行っていたのを思い出したんだよ。釈迦如来様からの指示で玄奘を試すように言われてちょうどいいなと」
准胝観音は茉莉花茶を受け取って言う。
「試す?」
「ああ。玄奘が経典を預けるに相応しいかを調べるためにな」
「ふーん、もう天竺に向けて旅立っているのにいまさらって感じもするけど……」
「まあな。これも玄奘が受けるべき八十一難の一つ、と釈迦如来様はおっしゃっていたが……」
准胝観音は土産に持ってきた乾燥させた棗と山楂飴、月餅を皿に出して瑤姫に勧める。
「で、どうだったのかしら?彼らはどのルートに進んだの?」
山楂飴を片手にワクワクしながら目を輝かせる瑤姫の問いに、准胝観音は口をへの字に曲げて首を振った。
「……わからん。こいつら、恋愛にもいかんし死亡遊戯にもなりそうもない」
「どの路線にも入りそうにないってこと?私の宝石たちの誘惑も退けるなんて……」
人間に一目惚れして下界に降りたくらい情熱的な瑤姫は、恋愛ルートの制作にも関わっている。
「玉瑞館の女性役には私の素敵な宝石たちの中から選りすぐりの黒曜石、藍玉石、紅玉石、碧玉石を入れたのよ?それにも靡かないなんて、息子も言っていたけれど、その玄奘様って人間なのに本当にすごいのねえ」
瑤姫は袖で口元を隠してクスクス笑った。
「当たり前だろう。元は釈迦如来様の二番弟子だったのだぞ」
箱庭に入った者はたいてい三姉妹のどれかに惚れて恋愛ルートに進むが、何度も箱庭遊戯を楽しんでいる猛者の中には、隠しキャラの廉黒曜との恋愛ルートを出すことに成功する者も稀にいる。
「あら?でもこれって神秘路線ではなくて?誰か倒れているわよ」
瑤姫が箱庭を覗き込んで言う。
だが准胝観音は眉間に手を当てて首を振った。
「それはうちの仔豚だ。誘惑の一つ、『般若湯挑戦』のときに寄って来て、酒の匂いに当てられて倒れたのだよ」
「まあ、匂いだけで?大変ね……こらからどうなるのかしら」
「ここまで見て、玄奘が誘惑に負けないことはわかったからもう終わりだよ、終わり。大体そもそもこんなことをする必要なかったんだ」
時間の無駄だったと准胝観音はそう言って椅子から立ち上がった。
「あら准胝ちゃん、どこに行くの?」
「ちょっと仔豚に灸を据えに、な」
「あら、まあ……ふふ、行ってらっしゃい」
箱庭を指差していう准胝観音を、瑤姫はクスクス笑って手を振り見送った。




