【百八十一 廉母娘の事情】
さて、沙悟浄に摘み出された三姉妹は、母親の元に戻っていた。
「ちょっと急ぎ過ぎたかしら」
「お坊様、かっこよかった……」
「あの弟子たちが邪魔よねぇ。守りが固すぎるわ」
そんなことを三姉妹が話しながら調理場にいくと、廉黒曜は一人で料理の支度をしていた。
「あんたたち、うまく行ったのかい?」
「媽媽、うまく行っていたら私たちは戻ってきていないわ」
悔しそうに言う廉藍玉に「それもそうか」と呟き廉黒曜はがっかりしてため息をついた。
「言っただろう?あのお坊様を誘惑してあんたたちのどれかの婿になってもらって、弟子たちは従業員になってもらおうって。働き手も増えるし、これは玉瑞館の死活問題でもあるんだよ」
「わかっているわ、媽媽」
廉碧玉の返事に廉紅玉もうなずく。
廉黒曜は菜切り包丁をキュッと握りしめた。
「久しぶりの、しかも男のお客なんだよ。この玉瑞館の後継の婿として、なんとしてもあのお坊様に残っていただかなくては。私がこの家に後家として来てからだいぶ寂れちまったけど……あの世で見守ってくれているあの人のためにも、今度はお坊様の胃袋を掴むのよ。さ、腕によりをかけて料理をしましょう!」
「はーい」
三姉妹は男性客が来るたびに聞かされる母親の話が退屈で聞き流しながら、返事をした。
三姉妹は着物の上に白衣を纏うと料理の支度に取り掛かった。
「はー、良いお湯だったね!ポカポカだよ〜!」
玉龍が満足そうに言う。
衣服は玉龍の如意宝珠で全て綺麗になっている。
玄奘たちが温泉から出ると、廊下には廉藍玉が待っていた。
てっきりまた三姉妹揃って玄奘のところに群がると思っていたものだから、玄奘を囲むよう守っていた弟子たちは皆一様に拍子抜けした顔をした。
廉藍玉は頭を深々とさげて謝罪した。
「先程は失礼いたしました。姉妹を代表して謝罪いたします。皆様の濡れたお召し物はこちらでお洗濯いたしますわ」
そう言って汚れ物を入れるようにと籠を差し出した。
「あ、ダイジョーブだよ。服は全部ボクがキレイにしたから!」
玉龍が言うと、廉藍玉は玉龍や玄奘の着物をまじまじと眺めた。
「あら、本当……すごいですわ。キレイですし乾いている……流石玄奘さまのお弟子さんですわね。素晴らしい技術をお持ちなのですね」
「えへへ〜、まあそれほどでも、あるかな!」
玉龍は鼻高々に謙遜した。
「それでは、食堂にてお食事の準備が整っております。こちらへいらしてください」
そう言って廉藍玉に案内された食堂の卓には、食べきれないほどの量のご馳走が並べられていた。
「温泉はいかがでしたか?体を温めたあとは、私たちが腕によりをかけたお料理をぜひどうぞ」
食堂の入り口で一行を出迎えた廉黒曜が満面の笑顔を浮かべながら手を擦り合わせて言う。
「お肉とか、お魚、使っていないので……」
「安心してお召し上がりくださいませ」
廉紅玉が消え入りそうな声で言い、廉碧玉が姉のセリフに言葉を足した。
「ささ、皆様どうぞお席に」
玄奘たちは廉黒曜に勧められるがまま、席に着く。
「わ、わぁぁぁ、みたこともないようなお料理がたくさんですね……!とても美味しそうです……!」
あまりに豪勢な料理の数々に、玄奘の顔が引きつっている。
(お皿洗いにお掃除、あとは、あとは……)
「大丈夫ですよお師匠さん。路銀には余裕ありますから」
お金を預かっている猪八戒が、金額のことで玄奘が悩んでいるのだと気づい耳打ちをする。
「卯ニ姐もよく言っていましたが、出されたものはありがたくいただかなくては、ですよ」
卯ニ姐と猪八戒の妻だった仙女で、正体は准胝観音だ。
「そうですね。ではありがたく、みなさんいただきましょう」
「わーい!いっただっきまーす!」
玄奘の号令で、食事が始まった。




