【百八十 積極的な三姉妹】
長い廊下を進んでいくと、突き当たりに引き戸があった。
「こちらが温泉です。ごゆっくりどうぞ」
廉藍玉が引き戸を引いて言う。
なかには脱衣所があり、その向こうにもう一つの扉がある。
「あ、雨が降っておりますが、温泉のところには屋根がついております……のでご安心ください……」
恥ずかしがり屋なのか、頬を林檎のように赤く染めながら廉紅玉が小さな声で言った。
「私たちはその間にお食事の準備をいたしますね」
廉碧玉はそんな姉をいたわるように背中を撫でながら言葉を付け足した。
「ありがとうございます。突然来てしまったのにご親切にしていただき感謝いたします」
「いえ、久しぶりのお客様で、その、私たちも嬉しいです……」
玄奘が礼を言うと、袖で顔を隠しながら廉紅玉が小さな声で言う。
「あの、お坊様、お召替えのお手伝いなど致しましょうか?」
「えっ?!」
廉藍玉の突然の申し出に玄奘は驚いた。
「お召し物が濡れていらっしゃいますし、脱ぎづらいかと」
廉藍玉はスッと距離を詰めて玄奘の手に触れる。
「そうですわねお姉様。私たちがお手伝いいたしますわ」
廉碧玉も玄奘に距離を詰めて間近から微笑む。
「お背中も……よろしければお流し……します」
消え入りそうな声で廉紅玉も言う。
「と、突然何を言い出すのキミたち?!」
玉龍は驚いて叫んだ。
「あらお師匠さんモテちゃってる?」
「ちょっとオジさん、言ってる場合?!」
三姉妹は玄奘を囲み、今にも着物を脱がせようとしている。
「お師匠様!」
「いや、ち、ちょ、待ってください……!」
孫悟空は玄奘を庇おうとするが、「遠慮なさらず〜」と三姉妹の攻撃はなかなか止まない。
中でも長女と三女は積極的な様子で、次女は顔を隠しながらオロオロと周りを動き回っている。
そこへ沙悟浄が間に入ってキッパリと通る声で言った。
「手伝いは結構。お師匠さまのお世話は我ら弟子の勤め故。お気持ちだけいただきましょう」
沙悟浄は手際よく三姉妹を摘み出すと、ピシャリと引き戸を閉めてしまった。
「悟浄、あ、ありがとうございます……」
ボロボロになった玄奘は、ずり落ちそうになっている袈裟を戻しながら礼を言った。
「悟空、つっかえ棒」
「あ、ああ」
引き戸を押さえたまま、沙悟浄が孫悟空に言う。
怒っているのか、その声は冷たい。
孫悟空は如意金箍棒をつっかえ棒にちょうど良い長さにして引き戸に嵌めた。
「いや俺の武器つっかえ棒じゃねえんだけどな……」
孫悟空は小さな声で呟いた。
沙悟浄は一仕事終えたとばかりにパンパンと手を叩いている。
「おシショー様大丈夫?いやーびっくりしたね、あの子たちったら突然どうしたんだろうね」
「お師匠さん、綺麗だから恋人にしたくなっちゃったのかな?お年頃みたいだしねえ、あの三姉妹」
「そう言うフリしてお師匠様を食おうとしてたのかもしれねえな……でもここに妖怪の気配はないんだけどなあ」
孫悟空は怪訝な顔で首を傾げて言う。
あの親子が妖怪だったらすぐに弟子たち全員わかるはずだ。
廉黒曜親子にそう言う雰囲気がなかったからこそ、玉瑞館に入ってからも孫悟空は大人しくしていたのだ。
「もう、何を言っているんですか。あの方たちは私がずぶ濡れで着脱できるかを心配してくださったのですよ。それよりも早く温泉に入って体を温めましょう」
本当に玄奘は彼女たちを疑っていないらしい。
弟子たちは顔を見合わせ、師匠の貞操を守らねばと固く決意をしたのだった。




