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深沙の想い白骸に連ねて往く西遊記!  作者: 小日向星海
第三章 玄奘と観音菩薩
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【十八、釣り】

 小枝と細い蔓、獣の骨で作った簡易的な釣り竿をもち、河伯は川を下っていた。


 傷も癒え、とにかく周りの状況を確認したかったからだ。


 食糧になるものはあるのか、火種になりそうなものはどうか。


 水だけはふんだんにあるのは幸いなことだが、水だけでは生き延びるのは難しい。


 そして流沙河は思っていたよりも大きく、あたりは冷え込みが厳しい場所だった。


 そのため木の実などは少なく、獣も鳥も多くない。


 まだしばらくは青鸞の料理があるから凌げるだろうが、なくなってからは生き延びるには厳しい場所だと河伯は途方に暮れながらも歩く。


 だだっ広い川をのぞきこむと、ちらほらと魚の影が見える。


 あまり大きな魚がいないのが残念だが、それでも食糧のひとつにはなるし、何より釣りができるのは良い気分転換にもなるだろう。


「餌はどうしたものか……」


 河原の石をいくつか退けると虫が出てきたので、小骨で作った針に刺して川に投げ込む。


「ふふ……っ」


 馮雪との出会いを思い出し、河伯から思わず笑いがこぼれた。


 餌をつけ忘れているのを教えてくれた馮雪。


 久々に夢で見たからか、一人で釣りをしていてもそばに彼がいるようにも感じられる。


「……またあなたと釣りがしたいものだ」


 あの時渡したヌシ級の大物は、燃やされて食べてもらえなかった。


 河伯はあの煤けた瓦礫の下から丸焦げになった魚が出てきたのを思い出した。


「今生こそは、あなたを探し出してきっと大物を……!」


 竿が揺れ、クイと引っ張る感触。


 すぐは引かない。駆け引きをするのだ。


 引かれるがままにして、魚の油断をさそう。


(この簡易的な釣り道具が持つかどうか……)


 細い蔦がちぎれるか、小枝が折れるか。


 あまり強度のない道具だから長くは遊んでいられない。


(……今だ!)


 気合を入れて引く。


 力強い感触に竿を握る手にも力が入る。


 ミシ、と枝がしなり音を立てた。


「うぉおおおお!」


 力一杯引くと、ようやく水から何かが上がった。


 勢いよく水面から姿を現したそれは、身の引き締まった川魚──ではなく。


「誰だ、全く!河にゴミを投げ入れたのは!!」


 誰かの脱ぎ捨てたボロボロの草履だった。



 その後、河伯は数匹の魚を釣ったのだが、どれも小さかったためにがした。


 河伯を嘲笑うように水中で悠々とおよぐ魚の影を見て、河伯は肩を落とした。


「腕が落ちたか……」


 馮雪を失ってからはどうも釣りをする気になれなかったのだ。


 住処に戻り釣竿を立てかけると、河伯は頭蓋のそばに座る。


 外出してからの日課だ。


「ただいま、みんな。今日は久しぶりに釣りをしたんだ」


 こんもりとした枯葉の山にのる、九連の頭蓋は何も答えない。だが河伯は気にせず言葉を続ける。


「なかなかの大物かと思ったんだが、釣れたのは草履だったんだよ。おかしいだろ?」


 クスクスと返事がない頭蓋たちに向かって話す。


「まったく、魚とそうでないものを見極められぬとは……俺の腕も落ちたものだな」


 そう呟いて河伯は笑う。


 下界へ落ちたものの、河伯は実に、緩やかで有意義な時を過ごしているのだった。


「青鸞……いまどうしているだろうか……」


 そんなことを考えながら、河伯は頭蓋の手入れを始めたのだった。

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