【百七十七 玄奘一行、山の天気に翻弄される】
太白金星に流沙河に送ってもらったあと、沙悟浄の住処を解体してから、玄奘たちは天竺への道をひたすら進んでいた。
今一行がいるところは、なだらかながらも勾配のある山道だ。
空は抜けるような青空で、日差しも優しい。
「ねえ、お腹すいたよ〜。そろそろ休憩しようよ〜」
「なんだよ玉龍ちゃん、さっき昼飯食ったばかりだろ?燃費悪すぎねえか?」
お腹をさすりながら言う玉龍に、猪八戒は苦笑した。
「ボクは成長期なの!オジサンにはわからないかも知れないけどね!」
「オジさんはもう成長期済んでるからわかりますー」
「まあまあ、開けたところに出たら休憩しましょう。位置も確認したいですし、ね?」
睨み合う二人に割って入り、玄奘が言う。
視線の先では、沙悟浄と孫悟空は地図を見てこの先の分かれ道について相談している。
「それでいいですよね、お二人も」
沙悟浄と孫悟空に声をかけると、二人は顔を上げ頷いた。
「俺様はいいですよ。悟浄もいいよな」
「ああ。悟空兄者たちがいいのなら俺も従う」
悟浄が言うと孫悟空は照れくさそうに頭をかいた。
「あ、兄者だなんて呼ばれんのはなんかこそばゆいな……前みたいに悟空でいいよ」
前、とは暴れる玉龍を倒すために共闘した時のことだ。
「しかし……兄弟子として皆様を敬わねば」
自分は1番末の弟子だし、と言う沙悟浄に、孫悟空は人差し指を突きつけた。
「俺様がいいって言ったらいいの!一番の兄弟子命令!なっ、八戒と玉龍もいいよな?」
「真面目だねえ。オレは全くかまわんよ」
孫悟空が猪八戒と玉龍の方を向いて言うと、猪八戒は頷いたが玉龍は腕組みをして悩むような仕草をした。
「う〜ん、ボクのことはお兄ちゃんって呼んで欲しいかなあ。ボクは末っ子だから弟が妹が欲しかったんだ〜!」
「玉龍お兄ちゃん」
玉龍の言葉を受けた沙悟浄は、至極真面目な顔をして玉龍をそう呼んだ。
「う……」
だが望み通りにしたのに、玉龍はつまらなそうに口を引き結んだ。
「……やっぱりボクのことは玉龍でいいよ。うん。ゴジョーは弟にしてはデカすぎるし……」
「え……」
孫悟空は、玉龍の気まぐれに小さくショックを受けた沙悟浄を慰めるように肩を叩いた。
「わかったな悟浄、俺様のことも八戒と玉龍のことも呼び捨てでいいからな!」
「ああ、わかった」
そんな弟子たちのやりとりを見て、玄奘はくすくすと笑った。
(沙和尚……仲良くできてるみたいですね。良かった)
その時だった。
突然、黒雲があっという間に立ち込め、激しい雨が降り出した。
「山の天気は変わりやすいって言うけど、変わりすぎじゃない?!」
声を掻き消すほど激しい雨音に、玉龍が叫ぶ。
「お師匠さま、こちらへ」
沙悟浄は自身の纏う外套を持ち上げ、玄奘に入るよう促した。
「あ、ありがとうございます」
体の大きな沙悟浄の外套の中に入ると、多少マシである。
「とにかく、あの大きな木のところまで走ろう!」
孫悟空の先導で、一行は雨を凌げるところを目指して走り出した。




