【百七十 河伯を責める声】
一方、河伯と戦う猪八戒は、だんだんと楽しくなる気持ちを抑えられなくなっていた。
こんなに思いっきり打ち合えるのなら、天界にいた時に捲簾大将と知り合いになっておけばよかったと今更ながら猪八戒は後悔していた。
(おっと、そんなこと考えている場合じゃねえんだった)
猪八戒は気持ちを切り替え、なんとかして瘴気の源である九連の髑髏を奪うか破壊しようかと、河伯の攻撃を釘鈀で受けつつ考えていた。
「貴様、馮雪たちを奪う気だろう!そうはさせん!今度こそ馮雪たちは俺が守るのだ!!」
(えー、このひと何言っちゃってんの……?フウセツってお師匠さんの前世ことだったよね?)
混乱しているのか、河伯は首飾りのことを馮雪たちと言い始めていた。
(早くアレを壊さねえと……っ!)
猪八戒はどうにかして首飾りを河伯から奪おうと手を伸ばすが、河伯はそれを許さない。
河伯は首飾りを守るように降妖宝杖を横に構えた。
猪八戒が、さてどうしたものか、と河伯を見据えつつ考えを巡らせていた時。
「わっ、何だ?!」
突然周囲に現れた光の覆いに猪八戒は驚いた。
「ぐっ……!」
その覆いが完成されたと同時に、目の前の河伯は苦しげに額を抑えて膝をついた。
結界のおかげか、頭蓋から立ち上る瘴気も薄まっているように見える。
「う、ああ……っ」
「ちょ、おい大丈夫かよ」
あまりに苦しそうなその様子に、猪八戒はあわてた。
その時の河伯の頭には馮雪の声が響いていた。
《どうして助けてくれなかったのですか?》
「すまない……すまない!」
《沙和尚が祝言に来てくれたら、おいらは死なずに済んだのに》
「……すまない……」
《転生したおいらのことも早く見つけて欲しかった》
「……っ!」
《今度こそ助けて欲しかった》
「ごめん……」
《ずっと待っていたのに、どうして来てくれなかったの?》
《怖かった》
《痛かった》
《苦しかった》
「……っく……」
虚ろな目をしてぶつぶつと謝罪の言葉をつぶやく河伯に、狼狽えていた猪八戒は動けずにいた。
「おいオッサン、ぼさっとしてないで首飾り!」
そこへ、駆けてきた孫悟空が叫ぶ。
「あっ、おう……」
「アチシがいくッチ!三昧神風!!」
猪八戒がまごついている間に、黄風大王は疾風に変化して河伯の元へと飛んでいく。
バチっ!
「ッチーーー!」
だが黄風大王は河伯を囲む瘴気の壁に弾き返されてしまった。
「大王様っ」
虎先鋒は悲鳴を上げながら弾き飛ばされた黄風大王を何とか受けとめた。
だが衝撃が大きすぎたのか、二人はタンゴ状になってそのまま突き出している岩に背中から激突した。
「黄風大王、虎先鋒!」
「孫親分、自分たちは大丈夫ッス……!」
「イッチチィ……感謝するッチ、虎先鋒」
二人の無事な様子に猪八戒はほっと胸を撫で下ろした。
そしてうずくまる河伯に向き直り、彼が呟いている言葉に耳を傾けてみた。




