【百六十八 黄風大王と虎先鋒の心】
玄奘はたくさんの励ましに、自分は一人ではなく多くの支えがあること、自分が弱気になっている場合ではないのだと目が覚めるようだった。
玄奘は顔を上げて猪八戒と戦う河伯の姿を見る。
目に入るのは、河伯の胸元の九つの髑髏を連ねた首飾り。
それは玄奘の過去世の遺骨。
河伯は永い間、玄奘の遺骨を身近に置いていた。
一体どんな気持ちで彼は玄奘の過去世の骸と共に過ごしてきたのだろう。
そしてそんなに永い間、短命な人間である馮雪を友として想い続けてくれた河伯の優しさに、玄奘は胸が熱くなる思いだった。
「私も沙和尚を助けたいです。みなさん、どうか力を貸してください!」
頭を下げる玄奘の言葉に、そこにいるみんなが頷いてくれた。
多くの協力に改めて気付かされた玄奘は心強く、嬉しく思った。
「なあ俺様は?俺様は何をすればいい?」
孫悟空は役目は霊吉菩薩に尋ねる。
「お前はワシらの詠唱の補佐じゃ。瘴気は浄化されないように河伯を操って抵抗するだろう。邪魔をさせないように猪八戒と共に河伯を防げ」
「うぇっ?!」
孫悟空は凄まじい轟音を轟かせながら、激しくぶつかり合う河伯と猪八戒を見て立ちすくんだ。
音も凄いが、やはり河伯の周りの瘴気の量と濃さが段違いだ。
あの中に入らなくてはならないのかと思うと、流石の孫悟空でも腰が引けてしまうし、なぜ猪八戒は平気で近寄ることができるのか不思議だった。
「なんじゃ、出来ぬか?あ、まさか斉天大聖ともあろうものがあの程度の瘴気にビビっておるのか?」
「そ、そんなことねえよ!やるよ、やってやろうじゃねえの!」
霊吉菩薩に煽られ、孫悟空は叫んだ。
「俺様は斉天大聖!俺様に倒せない敵などいなーい!」
「はっはっは、頼もしいな!その調子で頼むぞ斉天大聖!」
「うぉおおお!」
「はっはっは!」
「ねえおシショー様、アレ大丈夫?」
やたらと盛り上がる孫悟空と霊吉菩薩をみて不安になった玉龍が玄奘に尋ねる。
玄奘も孫悟空が無理をしているように見えて心配になった。
「悟空、無理はしないでくださいね。あなたに何かあったら私は悲しいです」
「お師匠様ありがとうございます!あなたを悲しませないよう頑張ります!お師匠様も頑張ってください!」
「はい、私も頑張ります!」
目をらんらんと輝かせ、期待に応えようと言う孫悟空に、玄奘は心配になりながらも自分も頑張らねばと拳を握り応えた。
「チチ……ッ、ここはどこ……アチシは誰ッチ?」
その時、頭をさすりながら黄風大王が起き上がった。
「ここは黄風嶺、お前は黄貂そしてワシはだーれだ?」
にっこりとして霊吉菩薩が黄風大王に尋ねると、気がついたばかりでうつらうつらしていた彼の顔からサーッと血の気がひいた。
「チー!!れれれ霊吉菩薩様ッ!」
「だ、大王様?!どうされました大王様って、わーっ霊吉菩薩様!?」
黄風大王の叫び声に虎先鋒も飛び起きる。
二人揃って同じ反応。
完全回復したと見える元気そうな姿に玄奘はほっとした。
「ワシがここに来た理由はわかっておるな?」
まだにこやかな霊吉菩薩の問いかけに黄風大王と虎先鋒は顔面蒼白、冷や汗をダラダラ垂らしになりながらこくこくと頷く。
「だが細かいことは今はいい。お前たちにも力を貸してもらうぞ。よいな」
「は、はいっチ」
「ウス」
否は認めないと霊吉菩薩は笑顔で彼らの肩をポンと叩き言外の圧力をかける。
「働きによっては、此度の瑠璃の皿盗難について酌量されるやも知れぬぞ?」
霊吉菩薩の言葉に黄風大王は肩に乗った霊吉菩薩の手を払った。
「命の恩人である玄奘ッチのためならこの黄風大王、酌量なんざあなくても力を貸すッチ!」
「自分も大王様と同じっス!玄奘様はこんな自分を労って手当てまでしてくれたっス!自分も大王様と共に恩義に報いるっス!」
みくびらないで欲しいと言う二人の様子に霊吉菩薩は目を丸くした。




