【百六十 玄奘の献身】
玄奘は黄風大王と虎先鋒の間で忙しなく動いていた。
頭をぶつけて気絶した二人をなんとか寝台と見られる台に運び横たえさせ、頭に大きなたんこぶを作った二人の頭を冷やしたり、汗を拭いたり。
たまにどちらかがうなされていれば、さすって「大丈夫ですか」と声をかけ、献身的に手当てをした。
どうやら玄奘は極度の緊張状態にいるようで、夜は深まってきているのに眠くなるどころか目はどんどん冴えていく。
そろそろ二人のたんこぶを冷やしていた濡布巾を変えようと、玄奘が水甕の蓋を開けようとした時だった。
「うう、いってぇ……」
うめき声が聞こえ、玄奘はあわてて寝台に戻った。
「大丈夫ですか?」
「テメェは……」
寝台に横たわった二人のうち、虎先鋒が目を覚ましていた。
頭のたんこぶはまだ痛むようだが元気そうだ。
「突然あなたがあの天井を突き抜け黄風大王さんとぶつかったのですよ」
「へ……?わーっ天井が!っと、大王様、大丈夫っスか?!うわやっべやえ、めっちゃたんこぶデケェ……天井の穴も怒られる!」
天井と黄風大王を交互に見て叫ぶ虎先鋒の大声に、隣に眠る黄風大王は眉間に皺を寄せてうめき声をあげる。
だがまだ彼は深い眠りについているようで、虎先鋒の大声にも起きることはなかった。
「大丈夫なのかよ、大王様は……!」
黄風大王の小さな頭から餅のように膨らんだたんこぶをみて、虎先鋒は不安そうに玄奘を見た。
黄風大王は、痛みのため眉間に皺が寄っているが、呼吸は乱れてもいないし安定している。
「おそらく大丈夫だと思いますが……念のため医術の心得のある方に診ていただくのがよろしいかと」
「そうか……」
「あなたも、もう少し休まれては?」
玄奘の言葉に虎先鋒はブンブンと首を振った。
「大王様が倒れているのに自分が寝るわけにはいかないっス!」
そう言って、虎先鋒は物置から板を数枚持ってきて天井の修復をはじめた。
「日が射すと眩しいっスからね!ここは塞いじまわねえと」
トンテンカンテンと、虎先鋒は急いで天井の穴を塞ごうと、板をトンカチで大穴に打ち付けていく。
「あの、あまり大きな音は……」
「う、うるさいッチ……何騒いでいるッチ……イテテ……」
玄奘が虎先鋒に注意をしたちょうどそのとき、黄風大王が目を覚ました。
「大王様……っ!」
虎先鋒は天井から勢いよく黄風大王に飛びついた。
だが、さすが大王と名乗るだけある。
体格差のある虎先鋒を、小柄な黄風大王はものともせず片手で押さえつけた。
「このきちんと絞られた濡れた布巾……お前が手当してくれたッチか?」
黄風大王は虎先鋒を押さえつけながら、たんこぶに乗せられた濡布巾を外して玄奘にたずねた。
「はい。黄風大王さん、痛みはどうですか?まだ横になっていた方が……」
「全く、逃げれば良いのにお人好しな奴ッチね」
黄風大王の言葉に苦笑して玄奘は頰をかいた。
「でも、ありがとうッチ」
小声で言われたお礼に気づいて、玄奘は嬉しくなった。
「とりあえずこの大穴を修理するッチか……」
「お二人とも、もう少し休まなくていいんですか?」
心配をする玄奘を、黄風大王は鼻で笑った。
「妖怪はそんなやわじゃないッチ。それより自分の心配をしたほうがいいッチよ。この修理を終えたら今度こそその袈裟をいただくッチからな」
そう言って、黄風大王から投げて寄越された濡布巾をなんとか受け取り、玄奘は布巾を乾かそうと物干しの方へと歩き出した。




