【百五十九 いざ黄風大王の元へ!】
そんな玉龍に、八爪金龍は優しげに目を細めてクク、と小さく笑った。
「父母も其方を心の底より嫌っているわけではあるまい。むしろ心を鬼にして其方を成長の旅へ送り出したのだ。このおいぼれには情の深いあの二人が我が子を憎み嫌うとは思えぬ」
「……そうでしょうか……ボクは両親に嫌われても仕方のないことをしてしまったので……」
「龍宮の宝珠を燃やしたのは確かに大事だが、先程話した通りこの欠けた如意宝珠と同じく取り戻す方法はあるのだ。もちろん其方の努力が必要だがなあ」
「……!」
呵呵と笑う八爪金龍の言葉に玉龍は頬を俯いていた顔を弾かれたようにあげた。
その頬は紅潮している。
「八爪金龍様、ボク頑張ります!」
「はは、焦るな焦るな。我らの寿命は永いのだ。其方はこのおいぼれも認めるあの二人の子なのだ。自信を持ちなさい」
「はい……!」
尊敬する八爪金龍からの激励に、玉龍は嬉し涙を浮かべて頷いた。
「ところで霊吉殿、なぜこのおいぼれを呼び出したのだ?まだ食事の時間でもないだろう?」
「あ、ああ、実はな……」
「そうだった!ボクがお世話になっているお坊さんがユーカイされちゃったんです!」
霊吉菩薩の言葉を遮り、玉龍が八爪金龍に縋り付いて言った。
孫悟空も猪八戒も玉龍の振る舞いに冷や汗が止まらなかったが、口を挟むこともできずにただ頭を下げていることしかできない。
霊吉菩薩はそんな玉龍に怒ることもなく、ただ苦笑して説明を続けた。
「その僧侶を攫ったのは黄貂。瑠璃の皿も其奴が持ち去ったと思われる。だがなぜかワシには気配が辿れるのだ。瑠璃の気配を辿れる其方なら黄貂の住処を見つけられよう」
「はっはっは!お安い御用だとも。なぜ早く呼び出さぬのだ。大方、その黄貂が自分で戻しに来るのを待っておったのだろうが……優しすぎるぞ霊吉殿は」
「その通りだ。面目ない」
霊吉菩薩は困ったように肩をすくめ、笑って言う。
「よし、さあ玉龍よ、ついてまいれ。共にそなたの師匠を助けに参ろうぞ」
「ハイっ!さ、ゴクウ、八戒のオジさん、ボクに乗って!」
玉龍は身をかがめて孫悟空と猪八戒を背に乗せた。
「霊吉殿もこのおいぼれにのりますかな?」
「いや、遠慮しよう。ワシには自分の雲があるからな」
そう言って霊吉菩薩は自前の雲に飛び乗った。
「お、おいどんたちも参ります!」
「盗まれたのはおいどんたちの失態!挽回の機会を!」
一行が飛び立とうとすると、金剛力士たちが縋り付くようにして霊吉菩薩を見上げて言った。
「いや、お前たちは太白金星殿とここに残り、留守を守れ」
「でも……おいどんたちは霊吉菩薩様の護衛でごわす」
「そうでごわす!黄貂の風から霊吉菩薩様をお守りせねば……!」
「今のお前たちの仕事は、ワシが留守をしている間の禅院の警護だ。良・い・な?」
「承知しましたでごわす……」
「はいでごわす……」
有無を言わせないと、にこやかながらも圧を滲ませて霊吉菩薩が言うと、阿形と吽形はしょんぼりと項垂れて頷いた。
「どうか皆様お気をつけて」
「はっはっは!太白殿、留守は頼みました。では行って参る!」
霊吉菩薩の掛け声で、八爪金龍を先頭に一行は禅院からとびたったのだった。




