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深沙の想い白骸に連ねて往く西遊記!  作者: 小日向星海
第十二章 ついに再会した玄奘と河伯!九つの前世の時を超え……今世こそあなたを守ります!
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【百五十二 黄風大王、誘拐の目的を語る】

 河伯から逃れ、八百里黄風嶺はっぴゃくりこうふうれいにある、黄風嶺黄風洞こうふうれいこうふうどうにようやく辿り着いた黄風大王は、ぐったりと椅子に腰掛け机に突っ伏した。


「はぁ、はぁ……なんとか逃げ切れたッチ……」


 黄風大王は動けなくなっているので今が逃げるいい機会なのだが、彼の見た目が小動物の可愛らしさゆえか、疲れ切った彼を放っておくのが憚られた玄奘は、石造の居室で居所なくキョロキョロとあたりを見回す。


 黄色い岩壁に、黄色く塗られた机。


 棚の上には黄色い小花が花瓶に生けられている。


(この妖怪は黄色が好きなのでしょうか……)


 妖怪が身に纏っているのは黄色い外套だ。


「す、すまないッチが、そこのかめから水をとってほしいッチ……」


 水甕の隣にある棚の上には見覚えのある妖怪の絵が置いてあった。


「この方……黒風怪さん、でしたっけ……?」


「まだッチか〜?!もう柄杓のままでいいから、早くしてくれッチ……!アチシはもう動けないッチ……」


 玄奘が記憶を辿ろうと目を閉じていると、黄風大王に急かされた。


「あ、すみません!」


 玄奘は急いで甕から水を掬うと、「早く」と手招きする黄風大王に持って行った。


「いや〜、使って悪いッチね!」


 柄杓を受け取った黄風大王は、意外にも律儀に玄奘に礼を言った。


「んぐ、んぐ、んぐ……ぷはー!生き返るッチ!」」


 黄風大王は小さな手で柄杓の柄を持ち、口の端から水をこぼしながら必死で水を飲む。


 その様子が可愛らしくて、誘拐されたことも忘れて玄奘は顔を綻ばせた。


 そんな玄奘の視線に気づいた黄風大王は、牙を剥き出しキッと睨みつけた。


「何ッチか!見せもんじゃないッチよ!」


 そう言って、黄風大王は口の端を乱暴に袖で拭った。


 可愛らしい外見と荒々しい仕草の差に、玄奘の笑みは無意識のうちに深まってしまう。


「あ、アチシだけ飲んで悪いッチね、アンタも喉が渇いてるなら飲んでもいいッチよ」


 玄奘の表情を見て誤解した黄風大王は、気まずそうに言って柄杓を差し出した。


「いえ、私は大丈夫なので、お気持ちだけで」


 柄杓を受け取った玄奘は甕の蓋の上にそれを戻す。


「ところで……あの、この絵は……黒風怪さんですよね?」


 そして気になっていた絵を持って黄風大王にたずねた。


 黒風怪の名前に耳をピクリと動かし、黄風大王は体を起こして薄桃色の鼻をヒクヒクさせた。


「そうッチ!黒風ッチとアチシはお友だちッチ!アチシは黒風ッチからアンタのその袈裟の話を聞いて、欲しくなってアンタをさらったッチよ!さあそれを寄越すッチ!」


 黄風大王は椅子から降りて玄奘に小さな黒い前足を向けた。


 彼の背丈は立ち上がると玄奘の膝下くらいまでしかないが、あの砂塵を操る大きな力を持った妖怪だ。


(可愛らしいけど油断は禁物ですね……)


 玄奘は九重の錫杖をぎゅっと握り、黄風大王に視線を合わせるよう身をかがめた。


「それはできません。この袈裟は観音菩薩様からいただいた大切な袈裟なのです」


「黒風ッチもそう言ってたッチ……でもそれなら力尽くでいただくまでだッチ!」


「──っ!」


 黄風大王が爪をぎらつかせて玄奘に飛びかかろうとした時だった。


 ゴォオオン!


 突然、大きな音を立てて飛んできた虎先鋒が岩壁を突き破り、黄風大王の頭に直撃したのだ。


「きゅう……」


 それは凄まじい音と衝撃だった。


 衝突した黄風大王と虎先鋒の二人は目を回し、泡を吹いてピクピクしている。


「大変!ど、どうしましょう……とにかく手当、手当ですね!」


 この隙に逃げればいいのに、やっぱり人の良い玄奘は彼らを放っておくことはできず、手当ての支度を始めたのだった。


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― 新着の感想 ―
[一言] 黄風大王、なんかやることなすことがやっぱり可愛いですね…!すごくいい感じです。そして玄奘はやっぱりとんでもないお人好しのようで…孫悟空のお腹がまたキリキリしそうですね…。孫悟空、アーメン…
2023/12/11 22:31 退会済み
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