【百四十七、黄風大王の急襲】
あたりは薄暗くなり、駆け足でとっぷりと日が暮れた今では、焚き火の火がなければお互いの顔も見えづらい。
「ギャっ!」
玉龍の悲鳴が聞こえ、次いでバシャっと何かが溢れる音。
おそらく何かに襲われた玉龍が椀を落としたのだろう。
「玉龍、大丈夫ですか?!」
玄奘は玉龍の近くへ行こうと腰を上げた。
その瞬間。
「おっと、動くなッチ」
「うっ!」
ぐいっと何かに引っ張られ、玄奘は動きを封じられた。
「お師匠様?!」
「お師匠さん!」
玄奘の悲鳴に孫悟空と猪八戒がそれぞれの武器を取り、声のした方へ行こうとした。
「おっと、アンタらの相手はこの虎先鋒がするっスよ!」
ヒュッと風を切る音がして何かが向かってくるのを感じた。
「させるか!」
ようやく目が慣れて来た猪八戒は釘鈀を振り、それを弾いた。
硬いものがぶつかり合う音と、砂利を引きずる音。
「ここはオレが引き受ける。お前はお師匠さんを!」
「わかった!」
虎先鋒を猪八戒に任せ、孫悟空は黄風大王に捕まっている玄奘の元へ走った。
何者かに羽交い締めにされた玄奘は、身を捩って逃れようとする。
だがその際手に触れた感触は人のそれでは無く、毛むくじゃらの細い、小動物のようなものだった。
こんな細いものがどうして自分の動きを封じられるのか、玄奘は不思議に思った。
「離しなさい!あなたは何者です!」
「チチチ!アチシの名前は黄風大王ッチ。お前が玄奘ッチね、一緒に来てもらうッチよ!」
問うと、甲高いネズミのような笑い声と共に告げられた言葉。
「お師匠様を離しやがれ!」
黄風大王が飛び去ろうとしたその時、間一髪間に合った孫悟空が如意金箍棒を突き出す。
「おっと!そう簡単にやられるわけにはいかないッチ!三昧神風!!」
黄風大王は玄奘を捕まえたまま、右手を孫悟空に向けて唱えた。
すると、ゴオオオという轟音と共に黄色い突風が孫悟空に襲いかかる。
黄色い風の中には細かい砂の粒が舞っていて、孫悟空の体のあちこちを傷つけていく。
そのうちの礫のいくつかが、孫悟空の目に当たった。
「うっ、目が……っお師匠、様……っ!」
鋭い痛みで目を開くことが出来なくなり、孫悟空の視界は真っ暗に。
「くそ、どこだ!このっ!!」
孫悟空は如意金箍棒を振り回すが、すでに距離をとっていた黄風大王には届かない。
「チチッ!では、この坊主はいただいていくッチ!虎先鋒、あとは任せたッチ」
「ウス!」
「ふざけんな!」
威勢よく返事をした虎先鋒を、猪八戒の釘鈀が打つ。
「待てよ、おい!お師匠様……っ、お師匠様ーーーーっ!!」
目が見えなくなってしまった孫悟空は、去っていく風の音に叫ぶことしかできなかった。




