【百四十三、猪八戒歓迎会】
一行はあれから烏斯蔵国を出て、流沙河を目指していた。
その途中のこと。
玄奘たちは准胝観音と別れ、元気がない猪八戒を励まそうと、昼食の休憩時間に歓迎会も兼ねたちょっとした宴を開くことにした。
小高い丘にある林の中の、大きな切り株がある自然の広場を会場に、それぞれ食材となるものを探す。
高翠蘭からもらった道具の中にも保存食はあるのだが、天竺までの長い道のり、なるべく節約していこうということになっているのだ。
「お師匠様、見てください!ほらこんなにたくさんオオバコを見つけましたよ!」
麻布をひろげ、得意げに孫悟空が言う。
「素晴らしいですね悟空!!ちなみに私はフキです!あら、あそこに橙(橙)もなっていますね!!」
「あれもとってきます!」
さすが猿である。
孫悟空は軽々と木に登り小振りの橙を収穫していく。
「わあ、すごぉい!」
玄奘から渡されたフキを、自分が収穫したキノコと一緒に近くの湧水で洗いながら、玉龍は感心したようにため息をついた。
「なあお師匠さん、オレも……」
「いいのです!八戒はそちらに!」
猪八戒はみんなから気を遣われることが初めてで、所在なさげにうろうろしていた。
何か手伝おうとしても、主役なのだからと座ってるように言われ、仕方なく草の上に膝を抱えてちょこんと座って目の前の光景を眺めていた。
並べられていくその品々に、ほんの少しの不安を感じながら……。
「さあ、召し上がれ!!」
しばらくして、大きな切り株の上にしいた蕗の葉の上に並べられた、橙、蕗の茎、オオバコの葉。
それから食べられるかわからない、微妙な色をしたキノコ。
作業を見守っていた猪八戒の、予想以上の料理が並んでいた。
まるで子どものおままごとの……いや、まだ子どもたちの方が美味しそうに作れるかもしれない、その卓上の光景に猪八戒は唖然とした。
(い、いやせっかく作ってくれたんだもんな……)
「わ〜お師匠さんと悟空の兄貴、玉龍ちゃんありがとうね〜八戒嬉しいなっ!新鮮な生のオオバコに、生のフキ。デザートの橙も美味しそう!」
「そうだろそうだろ、食え食え!」
「オジさん見る目あるじゃん〜!」
「ええどうぞ、遠慮なさらずに!」
キラキラと目を輝かせて三人から言われ、猪八戒はゴクリと唾を飲み込んだ。
猪八戒は意を決して箸を持ち、それらを食べようとした。
だがやはり心が折れてしまい、すぐにそれを置いてしまった。
「どうした、食わないのか?」
孫悟空の問いかけに渋い顔をした猪八戒がブルブルと震えながら三人をゆっくり見た。
「──ねぇ君たち、料理って知ってる?」
「知ってるぜ」
「知っています」
「当たり前でしょ!ボクを誰だと思ってるのさ!」
三人は頷き、中でも玉龍は腰に手を当てふんぞり返って言う。
「えっと、せっかく……用意してくれたのに、ごめんね?あの、これ……生だよ?食べれると思うの?」
百歩譲って橙ならまだ食べられるかもしれない。
けれども蕗や謎のキノコなどは明らかに……。
猪八戒の背を冷たいものが伝った。




