【百三十九 卯ニ姐の骨】
青い炎は瘴気の塊を燃やし尽くし、灰も何も残さずに消えた。
「熱いというか眩しかった……まだ目がチカチカするよ〜」
地上に戻った玉龍はフラフラになりながら准胝観音を下すと人型に変化した。
「みな、ご苦労。これでこの地も安心よ」
へとへとになって座り込む三人を見渡して准胝観音が労う。
「ねーねー、ところであなたは結局誰なの?カンノンさんにも似てるけど……ちょっと違うよね?」
目をこすりながら玉龍は首を傾げた。
猪八戒も理由が知りたくて、じっと准胝観音を見る。
准胝観音は苦笑して、長い黒髪をサラリと撫でた。
「妾は准胝観音。お前たちもよく知る、観音菩薩の姉だよ」
「あ、姉?!」
「お姉ちゃん?!」
「准胝……観音……?」
大声で驚く孫悟空と玉龍とは対照的に、猪八戒は呆然としている。
「だからあの指輪からカンノンさんに似た気配がしたのか!」
玉龍は納得したように手を打って言う。
「妖怪使いの荒い似たもの姉弟かよ……」
「何か?」
名前だけは知っていた孫悟空がつぶやいた言葉を耳ざとく聞きつけた准胝観音に微笑まれ、孫悟空は青ざめて首をぶんぶんと横に振った。
「卯ニ姐は妾が下界にて暮らしていた時の名で、本当の妾は……こんな姿では、お前を驚かせると思って会わずにいようと思ったのだがな」
眉を落として俯いて准胝観音が言う。
「そんな……会わずにだなんて……オレは……」
猪八戒は准胝観音の肩を掴み、だがなんと言ったら分からず言葉に詰まる。
そして猪八戒は豚頭の姿に戻った。
「オレだって元の姿はこんな姿だ。アンタに腕が十八本あろうが、オレは気にしない。そりゃ、観音菩薩の姉だなんて言うのには驚いたけどさ」
唇を尖らせて拗ねたように言う猪八戒の頬に准胝観音が触れる。
「ふ、この肌触り、懐かしいな。本に、可愛らしい仔豚だこと」
両手で頬を包むように手を当てて、准胝観音はら懐かしそうに呟いた。
「うっかり豚の腹に宿っちまって生まれたオレは豚の群れからも弾かれ、かといって人の中に入れるわけもなく……そんなオレを助けてくれたアンタを怖いだなんて思うわけがねえ!」
猪八戒は准胝観音の手に自分の手を重ね、真っ直ぐに准胝観音を見つめて言った。
「そうか……ありがとう」
准胝観音はそっと猪八戒の手を外し、一歩下がって距離を取った。
「ところで仔豚──いや八戒、妾が人であった頃の骨はまだ祭壇にあるだろう?」
「あ、ああ」
「あれをここに埋め、この地の護りにつかう。そこそこ力のあった仙女の骨だ。傷ついた大地を癒すくらいは役に立とう」
「……元からそのつもりで?」
烏斯蔵国では火葬はあまり行われない。一般的なのはハゲワシを使った鳥葬だ。
「いや、あの時の妾は毒に侵されていたからな。埋めたら大地もダメになる。燃やすしかなかったのだよ」
「……そうか」
猪八戒はそう言うと踵を返し、雲桟堂へと卯ニ姐のお骨をとりに戻って行った。




