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深沙の想い白骸に連ねて往く西遊記!  作者: 小日向星海
第十一章 烏斯蔵国の豚妖怪
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【百三十三 仮の夫婦の一区切り】

 いや、玄奘にもわかっているのだ。


 それは簡単なことだと。


 猪八戒を天竺に連れて行かないと、玄奘が言えば良いだけ。


 でも、猪八戒自身は天竺への旅のお供をすることを望んでいるし、なにより観音菩薩の命令で護衛となることになっているのだ。


 なんとかうまく事態を収めねばと考え込む玄奘に、猪八戒は視線で「大丈夫」と頷き、服を掴む高翠蘭の腕をやさしく解いた。


「お嬢さん、オレには、こちらの玄奘様を師として、共に天竺へ向かう旅に出ると言う観音菩薩様から与えられた役目があります。もうこれ以上あなたの夫ではいられないですし、マルティヤ・クヴァーラを倒した今、その必要もありません」


 猪八戒はそう言って自分の指輪を外し、それを翠蘭の手のひらに置き、握らせる。


「八戒さん……どうして?」


「この雌雄一対の指輪はあなたが持っていてください。いつかあなたの本当の夫となる人のために」


 本当はお下がりなんて、と思うのだが、卯ニ姐の作ったこの翡翠の指輪は夫婦和合のお守りでもある。


 そして、彼女が将来結ばれるのが猪八戒が想像している人物だとしたら、この指輪をつけることを断らないだろう。


「そんな……私は……あなた以外とは!」


「お嬢さん」


 尚もすがりつこうとする高翠蘭の手を包み込むように握り、猪八戒はゆっくりと首を横に振った。


「ごめんなさい。オレの心はこの先もずっと、卯ニ姐のものなんで。お嬢さんの気持ちには応えられません」


 きっぱりと言う猪八戒に、高翠蘭は目を伏せて項垂れた。


「ほら、やっぱりあなたはこんなにも誠実な方じゃないですか……」


 高翠蘭は手のひらを開いて、その中にある二対の指輪を見つめて肩を振るわせた。


 猪八戒は高翠蘭の肩をポンと叩き、気分を変えるように明るく言った。


「さあ、帰りましょう。高商会の皆さんが、お嬢さんのお帰りを待っていますよ」


「……はい」


 今度こそ、素直に頷いた高翠蘭は龍に変化した玉龍の背に乗ろうと足を踏み出した。


 だが、はたと立ち止まり、振り返って猪八戒を見上げた。


「八戒さん、最後にお願いを聞いていただけますか?」


「……いいですよ。オレにできる範囲なら」


「抱きしめて欲しいんです。一度でいいので」


 高翠蘭の切実な願いに、猪八戒は人の姿に変化した。


「いえ……そうではなく、あなたのそのありのままの姿のままで……」


「えぇ?……お嬢さんも物好きだねぇ」


 猪八戒は苦笑して、その願い通りに豚頭の姿で高翠蘭を抱きしめた。


「ありがとうございます八戒さん……」


「……こちらこそ、こんなオレを好きになってくれてありがとうございます」


 そう言って猪八戒は高翠蘭を離した。


「こんな、は余計ですよ。八戒さんは素敵な方なのですから、あまり卑下しないでください。卯仙女のためにも」


「……はい。ありがとうございます。でも、どうか先に進んでくださいね……」


 高翠蘭がどんなに待っていても、猪八戒には彼女の元に戻る気は無いのだ。


「努力しますわ」


 猪八戒の言葉に高翠蘭は困ったような顔をして頷き、玉龍の背に乗った。




 仏たちの住まう世界、須弥山にある、蓮が咲き乱れるとある池のほとりに、観音菩薩はやってきた。


 そこに建つ一軒の東屋の中に、准胝観音がいた。


 准胝観音は三つ目で九対の──合計十八本の腕を持つ観音菩薩だ。


 観音菩薩は准胝観音を見つけ、自身も東屋に入った。


「何か良い知らせでも?」


 目を閉じて何かに頷いていた准胝観音は、観音菩薩に声をかけられ三つの目を開き微笑んだ。


「──ああ、とても良い知らせだよ」


「隣に行っても?」


「構わない。どうした、我々は遠慮をする仲でもあるまい?」


 会いた席を指して観音菩薩が尋ねると、准胝観音は苦笑して頷いた。


「──まあ、それはそう、ですね」


 観音菩薩は頭をかいて准胝観音の隣に腰をかけた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 猪八戒の別れ際、かっこいいですね…!なんとなく渥美清感があってすごく気に入りました。猪八戒としても別れはしんどいはず。それでもスイランを置いて旅に出る。一方でスイランはスイランで猪八戒に後ぐ…
2023/09/24 00:53 退会済み
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