【百三十二 ルハードとの別れと高翠蘭の心】
高翠蘭の腕には少し大きいそれは、シュルシュルと大きさを縮めてちょうど良い大きさに変化した。
「アルシャークの魔道具か!」
猪八戒が感心してため息をつく。
高翠蘭はまじまじと自分の腕についている魔道具を眺め、そしてルハードに言った。
『今度来る時はゆっくり食事でもして行ってよ。それまでに私も商会をもっと大きくするから!』
『そんなに遅くは戻らないつもりだけど……』
『えっ?』
ルハードの呟きがよく聞こえなかったらしい高翠蘭が聞き返すと、誤魔化すように首を振って微笑んだ。
「ソウデスネ、烏斯蔵国の料理、楽しみニシテいまス」
烏斯蔵国の言葉でそう言うと、ルハードは空飛ぶ絨毯で飛び去った
「スイランさん、ちょっと鈍くない?流石のボクでもわかるよ?」
ルハードって人は苦労するなあ、としみじみ言う玉龍に、玄奘が首を傾げる。
「えっ、何が?どう言うことです??」
「ルハードは今のところ脈なしってことですよ」
孫悟空の補足に、玄奘は顔を青くした。
「えっ、待ってください。ルハードさん、生きてましたよね?!たった今見送ったじゃないですか。て脈なしって……まさか、彼は……!」
「大丈夫ですよ、お師匠さん。彼は確実に生者ですから」
そこへ苦笑しながら猪八戒が付け足した。
「で、でも悟空が彼は脈なしだと……」
だがまだ青い顔をして不安そうにしている玄奘に、猪八戒はチラリとまだルハードを見送っている高翠蘭をみてから、そっと玄奘に耳打ちをした。
「お嬢さんがルハードの気持ちに気づいていないってだけですから。大丈夫ですよ」
「ああなんだ、そう言うことでしたか。そっか、脈なしって、そう言う意味なのですね……」
「おシショーさんにも難しい話だったか」
玉龍の呟きに孫悟空はやれやれと肩をすくめ、猪八戒は苦笑して頭をかいた。
「さて、お嬢さんも帰りましょう。高太公に早く無事な姿をみせないと」
「そうだね、スイランさんのおジーちゃん、心配していたもんね」
そう言うと、玉龍は龍の姿に変化し、前足でドンと胸を叩いて言う。
「任せて!ボクがひとっ飛びで運んであげるから!」
「……帰りたくないです」
だが、高翠蘭はボソリと掠れ声でそれを拒否した。
「お嬢さん?」
「だって、帰ったら婚約者の契約を終わりにするんでしょう?!」
驚く猪八戒の腕を掴み、まるですがりつくように彼を見上げて高翠蘭が言う。
「ええ、それは、まあ……元々化け物を倒すまでの守り……そういう約束でしたから」
猪八戒はそんな高翠蘭に戸惑い、頬をかいてしどろもどろに言う。
「嫌です。どうかこのまま、私を八戒さんの妻で居させてください!!」
「え、ちょ、何故です?化け物は倒しましたし、こんな豚の妖怪ともようやく離れられるんですよ?嬉しくないんですか?」
猪八戒は元の豚の妖怪の姿になって尋ねた。
「嬉しくなんかないです!いえ、その化け物がいなくなったのは嬉しいですよ。でも、あなたとの婚姻が解消されるのは嬉しくないんです!」
「だから、何故?」
高翠蘭が醜い豚の妖怪と夫婦でいたいと思っているのか全く見当もつかない猪八戒は困惑し何度も訊ねる。
「私は……」
俯き言い淀んだ高翠蘭は、深呼吸するとキッと強い視線を猪八戒に向けた。
「八戒さんのことをお慕いしているからです!!あなた以外の方を、この先夫として生涯を共にするなんて考えられません!」
「お嬢さん……?」
「八戒さんは父がボロボロにした商会を立て直してくださいました。高商会にとっても八戒さんはかけがえのない方です!!」
「でも、オレは……」」
「見た目なんて関係ありません。あなたは誠実な方です!あなたの良さは私も、烏斯」
押し問答が続く二人を見て、玉龍がため息混じりに言う。
「オジさんも大概ニブいよね〜」
「高様……」
高翠蘭の、その必死な様子に玄奘は驚き、二人になんと声をかければいいかわからずにいた




