【百三十一 ルハードの願い】
(考えてみれば、オレやルハードに残すならもっと殺傷力のあるものを作るだろうからなあ)
猪八戒はそう考えて、ルハードに頷いた。
「卯ニ姐なら、そこまで見通して残しそうだもんな……」
猪八戒はそうつぶやき、封魔打尽網を高翠蘭に渡した。
「これはお嬢さんが持っていてください。護身用にでも」
「えっ、そんな、だってこれは……!」
戸惑い、宝貝を返そうとする高翠蘭の手を戻し、猪八戒は首を振った。
「これはあなたのために卯ニ姐が作ったものです。どうか……」
「わかりました。大切にします」
少し困ったような顔をした高翠蘭だったが、少しの間を置いてそれを腰のベルトに下げた。
「それにしても祭壇の脇かぁ。こないだ祭壇を掃除したあとどこに置いたのか忘れてしまって……、ずっと探していたんだよなあ」
「そんな大切なものを無くすなんて、オジさんはもう少ししっかりしないとね」
玉龍の言葉に猪八戒は返す言葉も思いつかず、ただ頭をかいてきまり悪そうに笑う。
『八戒サン、私はこれから国に帰り、マルティヤ・クヴァーラ討伐の報告をしてきます』
十数年、アルシャークの国民を悩ませた魔物の討伐を彼の国の人々もまた待ち望んでいることだろう。
『もういくのか?少しお茶でも飲んで休んでからでも……』
名残惜しそうな猪八戒の言葉にルハードは首を振る。
『いえ、早く持っていかないとこれの瘴気があたりを蝕んでしまいますので』
そういいながら、ルハードは空飛ぶ絨毯に乗りこんだ。
『それから、マルティヤ・クヴァーラの体は、魔物の体液に反応する薬液で焼き払いました。地面に染みた血も、これで大丈夫なはず……』
そう言いつつ、まだ不安なのかルハードの言葉ははっきりしない。
そんなルハードに猪八戒は『まあ大丈夫だろう』と安心させるように言って肩を叩いた。
『オレはこれから観音菩薩様からの命令でこの地を離れるが、またいつかどこかで会えるといいな』
『縁があれば、またいつか、どこかで……。スイランさんも、お元気で』
『ルハードも元気でね』
『……』
少し寂しそうに、けれどもはっきりと別れの言葉を言う高翠蘭に、ルハードは一瞬考え込むように俯いた。
それから顔を上げてまっすぐ高翠蘭を見つめて口を開いた。
「スイランさん、僕はアナタの元に戻る。必ず」
アルシャークの言葉ではなく高翠蘭の国、烏斯蔵国の言葉でそう言うと、ルハードは左腕にはめていた金のブレスレットを高翠蘭に向けて放った。
「ちょっと、何?!」
ゆっくりと放物線を描いて、金のブレスレットは高翠蘭の手のひらの中におさまった。
ブレスレットは金だけではなく、赤や緑、紫や黄色のいろんな小さな宝石がとりどりに散りばめられている、一見シンプルに見えるが実は豪奢な作りのものだ。
「ふわぁ、すごい、何これ……!」
高翠蘭の手のひらの中を覗き込んだ玉龍が叫んだ。
「これ玉龍!」
野次馬など、と思いつつ、自身も興味を惹かれた玄奘と孫悟空もチラリと覗き込んだ。
それは素人目にも息を呑むほど美しく、高価な代物だとわかる。
驚いた三人は思わず顔を見合わせた。
『ルハード、これは何?どういうこと?』
高家の目を使わずともわかるほどの価値あるものに流石の高翠蘭も驚き、アルシャーク語で尋ねる。
だが彼は烏斯蔵国の言葉で返す。
「これはアカシ。必ず戻ると言うヤクソクのモノ。だからお願い、ワタシのこと忘れないでほしい」
懇願するように言うルハードに、高翠蘭は戸惑ったような表情をして交互に腕輪とルハードをみた。
『……とりあえずあなたがまた烏斯蔵国にくるまで預かっておけばいいのね?わかったわ。高家の人間として責任を持って預かります』
「アナタの身につけていてほしい。ヒダリウデに。オマモリにもナル」
『わかったわ、任せて」
そう言って、高翠蘭は左腕にそれをはめた。




