【百二十七 マルティヤクヴァーラ討伐戦①】
マルティヤ・クヴァーラの土塊を、流れるような剣捌きで何とか全て撃ち落とし終えたルハードは、高翠蘭の声を聞いて曲刀を鞘に収めた。
『すまない、八戒さんから開けるなと言われているから……』
『私も、あなたたちと一緒に決着をつけたいの!』
もう人喰いの化け物に怯えて過ごすのは嫌だと、高翠蘭は封魔打尽網を握りしめて言う。
『ダメだ、危険すぎる!』
『お願い!私、卯仙女の宝貝を預かったの!』
『預かった?』
まるで今、亡くなったはずの卯ニ姐から預かったかのように言う高翠蘭の言葉に、ルハードは首を傾げた。
『卯仙女はあのバケモノを捉える武器をオイルランプの魔人に預けていたの!これであのバケモノの動きを封じるように、と』
『オイルランプの……魔人?!』
その言葉にハッとしてルハードは閂を外した。
高翠蘭の手には先端に鏢のついた縄の束がある。
『その、縄のついたものが……?』
ルハードの問いかけに高翠蘭は頷いた。
ルハードはチラリと背後のマルティヤ・クヴァーラを伺う。
幸いなことに、あの化け物は未だ高翠蘭には気づいていないようだ。
ルハードは肩にかけていた布を外し、高翠蘭に被せた。
高翠蘭の匂いをマルティヤ・クヴァーラに悟られないためだ。
『なるべく近くの茂みから狙おう」
『わかった』
高翠蘭は頷き、ルハードの後ろをついて行った。
一方で、自分に向かってくる土塊を、玄奘はまっすぐに見据え九重の錫杖を両手で持って構えた。
足は肩幅に開き、膝は軽く曲げる。
肩の力は抜いて、脇は開けすぎない程度に。
凄まじい勢いで向かってくる土塊に恐怖を感じて目を閉じたくなるが、また小坊主の頃、兄弟子たちと遊びに使った馬糞玉よりは臭くない分、マシだと玄奘はそんなことを思っていた。
しっかりと土塊を見据えていると、だんだんとその速さに慣れてくる。
(来る……!)
玄奘は左足を前に出して踏ん張り、腰を捻る。
そして勢いをつけ九重の錫杖を振ろうとしたその時だった。
「何をしているんですか!!」
それよりも早く、危機一髪現れた孫悟空が土塊を叩き壊した。
「あっぶないの!油断しすぎだよ、八戒オジさん!」
それと同時に声がして、見ると玉龍が猪八戒を助け出しているところだった。
どうやったのか、猪八戒はすでにマルティヤ・クヴァーラの前足から逃れていた。
おそらく如意宝珠を使ったのだろう。
マルティヤ・クヴァーラもまた、何が起きたか分からずに、猪八戒を押さえつけていたはずの前足を眺めている。
土塊を撃ち落とした孫悟空は、すぐに振り返って玄奘の肩を掴んだ。
「お師匠様、ご無事ですか!怪我は?」
「悟空、私は大丈夫ですよ。あなたこそ大丈夫ですか?顔色が……」
玄奘が孫悟空の頬に手を伸ばそうとすると、サッと顔を伏せその手を避けた。
孫悟空は泣きそうな顔を玄奘に見られたくなかったのだ。
「分身が消えた時の衝撃が来ただけです。それに、お師匠様が無事だとわかったのでもう元気になりました」
しかし孫悟空はすぐに顔を上げて心底安心した表情で言う。
そして玄奘の肩から手を離し、孫悟空はマルティヤ・クヴァーラに向き直ると如意金箍棒を構えた。
「それで、あれはどうしたらいいんです?」
再び猪八戒を見つけたマルティヤ・クヴァーラは飛び掛かろうと毒の息を吐きながら身を低くしている。
「ルハードは討伐の証拠として、奴の首をなるべく綺麗な状態で持ち帰りたいらしい。奴の動きを止めればあとはルハードが斬る」
そう言って猪八戒が雲桟堂を指したが、そこにルハードの姿はなかった。
しかも雲桟堂の扉が開いている。
「……どういうことだ?」




