(道中)9
エリカの足が止まった。
僕のローブの裾を掴んだ。
「ここ・・・」
崩れる様に両膝を地につけた。
甲高い悲鳴。
「イッヤー、イヤー」
やはり気付いた。
両手で僕の太腿を激しく叩く。
どうしようもない。
僕には、どうしようもない。
無力だ。
行き交う人達の視線が僕に突き刺さる。
僕は跪いてエリカを抱き寄せた。
「ここだよ」
エリカは嗚咽を漏らしながら何度も何度も頷いた。
涙と鼻水が止まらない。
胸元がビッチョビチョ。
「どうして」啜り泣くエリカ。
「村に戻って生き残りがいたら、親兄弟がいたらだけど、
ここで売られた事を話す必要があるだろう。
だから確認する為に来たんだ。
やはりここだった。
エリカを泣かせる事になって、ごめん、本当にごめん」
ジュリアの記憶は感情が抑制されていた。
喜怒哀楽が単純化されていた。
気楽に考えていた。
でも、涙が一粒・・・、頬を伝って来た。
それからは止まらない。
涙腺が崩壊した。
僕はジュリアに引き摺られているらしい。
エリカがようやく落ち着いた。
「ごめんね、姉さん」上目遣い。
「いいさ、僕が説明しなかったのが悪い」
「ううん、これからどうするの。
船の近くまで行くの」
「今日はここまで。
今夜の宿を探そう」
「森の夜営じゃなくて、街中の宿にするの」
「そうだよ。
一緒に探そう」
「はい」力強く答えて立ち上がった。
坂道の途中にある宿屋にした。
平民の富裕層向けで、一晩10000ベレル、
フロントの者は当初、どこから見ても未成年の僕達を怪しんだ。
ところが無造作に二泊分前払いすると態度を豹変させた。
揉み手で言う。
「食事はどうなさいますか。
朝晩で2000ベレルの追加になりますが」
お金なら腐るほどある。
自分が稼いだお金じゃないけど。
「それも二泊分で頼む」
4000ベレル支払った。
三階の部屋に入った。
窓から港湾全体が見渡せた。
エリカに尋ねられた。
「お姉さん、二泊するの」
「そうだよ、とりあえず明日は・・・、エリカは何したい。
それで明後日も・・・、エリカは」
「何も考えてないんだ」
「そうとも言う」
お風呂は各個室に備えてあるのではなく、
四階の展望露天大風呂だった。
勿論、男女別。
これが賑わっていた。
宿泊客だけでなく、入浴のみの一般客もいた。
僕はエリカを連れて女湯に突入した。
女湯だから当然、みんな女、女、裸体がずらり。
元男子の僕としては。
心は熱くなっても身体が反応しない。
はあ、よかった。
エリカと身体の洗いっこ。
猫人は初体験。
別の意味で研究心丸出しになってしまった。
研究者じゃないけど。
僕が湯船に浸かっていると、エリカが何を考えたのか、
窓際に走った。
そして思いっきり窓を全開にした。
「お姉ちゃん、港が見えるよ、船も」
「キャー」女湯から一斉に声が上がった。
「なによ」
「ウギャー」
「そこの子供、閉めなさいよ」
潮風が女湯に吹き込んで来た。




