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虻蜂虎S'。  作者: 渡良瀬ワタル
3/285

(生贄)3

 ありがとう、ありがとう。

まてまて、感心している場合ではない。

ここから逃げ出さなくちゃ。

気付かれたら、一体どんな目に遭うか。

ゾンビとして殺されるな、たぶん。

怖い、怖い。

命あっての籾種、いや物種。

さあ、どうやって逃げようか。

生贄達の下敷きになって身動きが取れないんだけど。

その解決策は。


 亜空間収納魔法上級を起動した。

試してみよう。

手で贄の死体に触れ、亜空間収納に入れると念じた。

一体目成功。

思ったよりも簡単だった。

それからは仕事の様に、上に重なっている贄を次々に取り込んだ。

これは便利、か弱い女の子向きだ。


 自由になった。

立ち上がった。

痩せているせいか、妙に軽い感じ。

着ているのは王国魔法騎士団が用意した半ズボンにローブ。

それが糞尿と血に塗れて臭い。

 そこで光魔法上級を起動した。

ライトクリーンをかけた。

ついでにアドリブ。

着たまま洗濯と乾燥、これに柔軟な仕上がりをイメージした。

一分もかからずに終えた。

触ってみると、ふんわり。


 気になっていた股間に手を伸ばした。

象さんがいない。

パオ~ンと鳴かない。

やはり女の子だった。


 周りを見まわした。

僕がいた山の他にも生贄の山があった。

一つ、二つ、三つ、四つ、五つ。

足下に何かが転がっていた。

鑑定すると魔道具【奴隷の首輪】であった。

生贄達が嵌めさせられていた首輪だ。

当然、ジュリアも嵌めさせられた。

それが辺りに何十個も散乱していた。

 奴隷から解放されると外されるのだが、目にしている物は違った。

殺された事により、死亡と認識して自動的に外れたのだ。

幾つか拾い上げて亜空間収納に入れた。

お土産ではないけど、それに近い。

錬金魔法を持っている。

それの実習機材として使える、そう思った。


 収納から贄達を取り出した。

本当は自分の様に小奇麗にして並べたいのだが、

それでは怪しまれる。

元の様に山積みにした。

贄のみんな、ごめんなさい。


 暗くなってきた野外神殿を見回した。

奥まった所に神らしき立像があった。

信仰する人々は、『全知全能の神・ベルル』と呼ぶ。

生贄を認めているから、その正体は悪魔の類なのだろう。

 暗がりを歩いて野外神殿から出た。

予想通り、騎士団に相応しい立派な建物が随所にある。

一番大きくて高い建物が本館なのだろう。

窓々から明かりが煌々と漏れている。

 ここからだと、かなり距離がある。

僕はそれとは反対方向に足を向けた。

巡回の二人連れが見えたので木立の陰に隠れた。

鑑定した。

プレートアーマー姿の騎士と軽装の従士。

やり過ごして彼等の後をつけた。

高い石壁が見えた。

高さは5メートルほど。

閉じられた門の脇に詰め所があった。

何門かは知らないが、その先には自由があればいい。

あれば文句はない。


 僕は高い壁に沿って歩いた。

この高い石壁を越える手段は身体強化に頼る、それしかない。

無謀だとは思うが試してみよう。

まずは初級。

その場で軽くジャンプした。

予想より大きく跳んだ。

次は中級。

この感覚、これはジャンプと言うより、マガジン、サンデー、

いやいや飛びます、飛びます。


 さっそく本番。

助走からホップ・ステップ、壁の上に向かってジャンプ。

ジャンプと同時に、思いつきで風魔法初級を起動し、

身体強化中級に重ね掛け。

途端、身体がフワリと浮き上がった。

高い、高い。

石壁の上の通路に着地した。

やはりこの石壁は施設の外壁だった。

その先に自由ではなく、森が見えた。

深く暗い森。

魔物の気配が濃い。

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