(生贄)3
ありがとう、ありがとう。
まてまて、感心している場合ではない。
ここから逃げ出さなくちゃ。
気付かれたら、一体どんな目に遭うか。
ゾンビとして殺されるな、たぶん。
怖い、怖い。
命あっての籾種、いや物種。
さあ、どうやって逃げようか。
生贄達の下敷きになって身動きが取れないんだけど。
その解決策は。
亜空間収納魔法上級を起動した。
試してみよう。
手で贄の死体に触れ、亜空間収納に入れると念じた。
一体目成功。
思ったよりも簡単だった。
それからは仕事の様に、上に重なっている贄を次々に取り込んだ。
これは便利、か弱い女の子向きだ。
自由になった。
立ち上がった。
痩せているせいか、妙に軽い感じ。
着ているのは王国魔法騎士団が用意した半ズボンにローブ。
それが糞尿と血に塗れて臭い。
そこで光魔法上級を起動した。
ライトクリーンをかけた。
ついでにアドリブ。
着たまま洗濯と乾燥、これに柔軟な仕上がりをイメージした。
一分もかからずに終えた。
触ってみると、ふんわり。
気になっていた股間に手を伸ばした。
象さんがいない。
パオ~ンと鳴かない。
やはり女の子だった。
周りを見まわした。
僕がいた山の他にも生贄の山があった。
一つ、二つ、三つ、四つ、五つ。
足下に何かが転がっていた。
鑑定すると魔道具【奴隷の首輪】であった。
生贄達が嵌めさせられていた首輪だ。
当然、ジュリアも嵌めさせられた。
それが辺りに何十個も散乱していた。
奴隷から解放されると外されるのだが、目にしている物は違った。
殺された事により、死亡と認識して自動的に外れたのだ。
幾つか拾い上げて亜空間収納に入れた。
お土産ではないけど、それに近い。
錬金魔法を持っている。
それの実習機材として使える、そう思った。
収納から贄達を取り出した。
本当は自分の様に小奇麗にして並べたいのだが、
それでは怪しまれる。
元の様に山積みにした。
贄のみんな、ごめんなさい。
暗くなってきた野外神殿を見回した。
奥まった所に神らしき立像があった。
信仰する人々は、『全知全能の神・ベルル』と呼ぶ。
生贄を認めているから、その正体は悪魔の類なのだろう。
暗がりを歩いて野外神殿から出た。
予想通り、騎士団に相応しい立派な建物が随所にある。
一番大きくて高い建物が本館なのだろう。
窓々から明かりが煌々と漏れている。
ここからだと、かなり距離がある。
僕はそれとは反対方向に足を向けた。
巡回の二人連れが見えたので木立の陰に隠れた。
鑑定した。
プレートアーマー姿の騎士と軽装の従士。
やり過ごして彼等の後をつけた。
高い石壁が見えた。
高さは5メートルほど。
閉じられた門の脇に詰め所があった。
何門かは知らないが、その先には自由があればいい。
あれば文句はない。
僕は高い壁に沿って歩いた。
この高い石壁を越える手段は身体強化に頼る、それしかない。
無謀だとは思うが試してみよう。
まずは初級。
その場で軽くジャンプした。
予想より大きく跳んだ。
次は中級。
この感覚、これはジャンプと言うより、マガジン、サンデー、
いやいや飛びます、飛びます。
さっそく本番。
助走からホップ・ステップ、壁の上に向かってジャンプ。
ジャンプと同時に、思いつきで風魔法初級を起動し、
身体強化中級に重ね掛け。
途端、身体がフワリと浮き上がった。
高い、高い。
石壁の上の通路に着地した。
やはりこの石壁は施設の外壁だった。
その先に自由ではなく、森が見えた。
深く暗い森。
魔物の気配が濃い。




