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虻蜂虎S'。  作者: 渡良瀬ワタル
28/285

(旅立ちに向けて)7

     ☆


 ドロス広場の朝は早い。

日の出とともに飲食業の屋台エリアが次々に開店した。

モーニング等の軽食から、ステーキ等の重い物、朝飲みまで。

雑多だが、食欲をそそる匂いが辺りに撒き散らされた。

それを目当ての客が早朝から引きも切らない。

 ドロス広場の喧騒が見て取れる立地、

好立地に都知事官邸と公邸が並んでいた。

公邸から都知事、ジャレット・イム・ゴードンが出て来た。

勿論、一人ではない。

護衛が二人、直ぐ後ろで警戒していた。

 三人は平民を装っているが、

醸し出す空気は周辺の者達とは明らかに異なっていた。

貴公子然としたジャレット。

触れれば切れそうな二人の護衛。

 ジャレットは都知事に任命された事を感謝していた。

こうして気軽に街中を出歩けるからだ。

遊びでは、けっしてない。

都民の生活を肌で感じ取るにはドロス広場が一番と公言し、

モーニング、いや、朝から視察していた。

そんな訳から、行き先は鼻に決めさせていた。


 ジャレットの鼻が選んだのは朝がゆの屋台。

干し貝柱がゆ。

護衛の立哨は困るので、同席させて食事も摂らせた。

こうして好き勝手できるのは独身だから。

正室を迎えたら、こうも自由には振舞えないだろう。

暗澹たる思いと粥を飲み込んだ。

 食事を終えて辺りを見回した。

露店の者達が忙しなく動いていた。

荷車で品物を搬入し、店頭に並べて行く。

掛け声や指示の声が飛び交い、活気がある。

この朝の風景がジャレットは一番好ましいと思う。

王宮での喧騒とは完全な別物。

人間本来の在り方と感じていた。


 モーニングを終えたジャレットは視察を続けた。

青空市場の各エリアを順次見て回る。

都民に必要な物は基本的には四つ、衣食住と職。

それらの情報がここで得られる。

物価の動きから水面下に流れる噂、周辺街道の状況まで。

 一般平民はジャレットの顔は知らないが、

青空市場の主要な顔役は見知っていた。

彼が知事に就任するや、非公式に公邸に招いたからだ。

それからは彼がエリアに近付くと顔役が挨拶に訪れ、

彼が必要とする情報が提供されるようになった。

彼が一方的に得るだけではない。

見返りに、青空市場の改修改善は都政が主導して行った。


 ジャレットは野菜エリアで顔役に説明を受けていた。

耳で聞き、目で野菜の状態を確かめていた。

ところが頭ではもう一つの事態が進行していた。

ジャレットが持つスキル、察知が疼くのだ。

顔役の言葉を噛み砕きながら、原因を探した。

そして買い物客の一人に行きあたった。

 途中の果物エリアや穀物エリアでも見かけた。

そいつは買い付けていた。

果物に穀物、他にもあるかも知れない。

そいつは買い付けるとロープの下の肩掛けバッグに入れていた。

 今も視界の片隅にいる。

キャベツの山を値切ることなく言い値で買う。

即金で支払う。

常連ならツケが利くが、ではないらしい。

 しかし、どれだけ入るんだ、そのバッグ。

膨らむ様子が全くない。

マジックバッグか・・・。

疑問だけが膨らんでゆく。


 革製の深緑色のフード付きローブ、茶色の革長靴。

フードを深く被っているので顔は分からない。

細い身体。

背は低い。

姿勢がしっかりしている。

仕草から老人ではなくて子供だろう。

子供に貴重なマジックバッグ・・・、親でも心配で与えないだろう。

 ジャレットは第二魔法騎士団での盗難事件と関連付けた。

警邏局に丸投げしたが、報告は逐一うけていた。

ここまで全てが空振り。

今、目の前に怪しい奴がいる。

犯人ではないのかも知れないが、

何がし等の突破口になるかも知れない。

特にあのマジックバッグの入手先・・・。

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