(旅立ちに向けて)7
☆
ドロス広場の朝は早い。
日の出とともに飲食業の屋台エリアが次々に開店した。
モーニング等の軽食から、ステーキ等の重い物、朝飲みまで。
雑多だが、食欲をそそる匂いが辺りに撒き散らされた。
それを目当ての客が早朝から引きも切らない。
ドロス広場の喧騒が見て取れる立地、
好立地に都知事官邸と公邸が並んでいた。
公邸から都知事、ジャレット・イム・ゴードンが出て来た。
勿論、一人ではない。
護衛が二人、直ぐ後ろで警戒していた。
三人は平民を装っているが、
醸し出す空気は周辺の者達とは明らかに異なっていた。
貴公子然としたジャレット。
触れれば切れそうな二人の護衛。
ジャレットは都知事に任命された事を感謝していた。
こうして気軽に街中を出歩けるからだ。
遊びでは、けっしてない。
都民の生活を肌で感じ取るにはドロス広場が一番と公言し、
モーニング、いや、朝から視察していた。
そんな訳から、行き先は鼻に決めさせていた。
ジャレットの鼻が選んだのは朝がゆの屋台。
干し貝柱がゆ。
護衛の立哨は困るので、同席させて食事も摂らせた。
こうして好き勝手できるのは独身だから。
正室を迎えたら、こうも自由には振舞えないだろう。
暗澹たる思いと粥を飲み込んだ。
食事を終えて辺りを見回した。
露店の者達が忙しなく動いていた。
荷車で品物を搬入し、店頭に並べて行く。
掛け声や指示の声が飛び交い、活気がある。
この朝の風景がジャレットは一番好ましいと思う。
王宮での喧騒とは完全な別物。
人間本来の在り方と感じていた。
モーニングを終えたジャレットは視察を続けた。
青空市場の各エリアを順次見て回る。
都民に必要な物は基本的には四つ、衣食住と職。
それらの情報がここで得られる。
物価の動きから水面下に流れる噂、周辺街道の状況まで。
一般平民はジャレットの顔は知らないが、
青空市場の主要な顔役は見知っていた。
彼が知事に就任するや、非公式に公邸に招いたからだ。
それからは彼がエリアに近付くと顔役が挨拶に訪れ、
彼が必要とする情報が提供されるようになった。
彼が一方的に得るだけではない。
見返りに、青空市場の改修改善は都政が主導して行った。
ジャレットは野菜エリアで顔役に説明を受けていた。
耳で聞き、目で野菜の状態を確かめていた。
ところが頭ではもう一つの事態が進行していた。
ジャレットが持つスキル、察知が疼くのだ。
顔役の言葉を噛み砕きながら、原因を探した。
そして買い物客の一人に行きあたった。
途中の果物エリアや穀物エリアでも見かけた。
そいつは買い付けていた。
果物に穀物、他にもあるかも知れない。
そいつは買い付けるとロープの下の肩掛けバッグに入れていた。
今も視界の片隅にいる。
キャベツの山を値切ることなく言い値で買う。
即金で支払う。
常連ならツケが利くが、ではないらしい。
しかし、どれだけ入るんだ、そのバッグ。
膨らむ様子が全くない。
マジックバッグか・・・。
疑問だけが膨らんでゆく。
革製の深緑色のフード付きローブ、茶色の革長靴。
フードを深く被っているので顔は分からない。
細い身体。
背は低い。
姿勢がしっかりしている。
仕草から老人ではなくて子供だろう。
子供に貴重なマジックバッグ・・・、親でも心配で与えないだろう。
ジャレットは第二魔法騎士団での盗難事件と関連付けた。
警邏局に丸投げしたが、報告は逐一うけていた。
ここまで全てが空振り。
今、目の前に怪しい奴がいる。
犯人ではないのかも知れないが、
何がし等の突破口になるかも知れない。
特にあのマジックバッグの入手先・・・。




