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偽物聖女は冷血騎士団長様と白い結婚をしたはずでした。  作者: 雨宮羽那
第3章

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33/56

33・親友は世話を焼く


 それから瞬く間に時間は過ぎ……。

 クラウス様と約束した三日後は、あっという間にやってきた。


「――ってことで、庭園開放の式典、来週になりそうなんだけど、大丈夫そう? ……レティノアったら!」


 セリナの声に、私は慌てて顔を上げた。

 城からの連絡事項を伝えに来てくれたセリナと予定を擦り合わせている最中だったのに、ぼんやりしてしまっていたらしい。

 

「え! あ、ご、ごめんなさい。その日程で大丈夫よ」


 返事をしながらも、心ここに在らずなことは自分でもわかっていた。


 (……クラウス様と約束した日だって思ったら、どうしても落ち着かないんだもの……)


 朝の祈りが終わった頃に礼拝堂で待ち合わせ、ということになっているが、クラウス様はまだ姿を見せない。そうこうしているうちにセリナが来て打ち合わせすることになってしまったのだ。

 セリナは私の様子を訝しげに見つめている。

 

「あんた大丈夫? もしかしてまたクラウス様となんかあった?」


「え!?」


「……え、図星?」


 セリナの口から出てきたクラウス様の名前に、過剰に反応してしまった。

 思わず大きな声を出してしまい、頬が熱くなる。

 これでは正解です、と言っているようなものだ。


「……レティノア~、ちょっと私に話すことあるんじゃな~い?」


 (……しまった。これは楽しまれる……)

 

 案の定、セリナは興味津々と瞳を輝かせている。私はため息を吐き出すと、事情を話すことにした。


 

「へえ!? クラウス様とデート!? しかも今日!?」


 私から事情を聞き終えたセリナは、驚いた様子で目を見開いた。

 

「せ、セリナ、声が大きい……!」

 

 いつクラウス様がやってくるか分からないのだ。

 慌ててたしなめるものの、セリナには届いていないようだった。完全に興奮してしまっている。

 

「何その急展開! 何があったって言うのよ!?」


「こっちが聞きたいわよ!」


 クラウス様が何を考えているのかなんて、私の方が知りたいくらいだ。

 何故私をデートに誘ってくれたのか、理由をずっと考えてみたがわかるわけもない。


「ってか、あんた、それで行く気!?」


 セリナは私の服装をあらためて、さらにぎょっとしていた。

 私の服装はというといつも通りだ。

 教会でいつも身につけている簡素なシスター服。


「し、仕方ないでしょ、私そんなに服持ってないし……」


 かろうじて与えられていたドレスは実家に置きっぱなしだし、最悪処分されているだろう。

 新しく服を買いに出かける時間もなく、これしか着るものがなかったのだ。


「せっかくのデートなんでしょ!? せめてもっと可愛くしようよ! ほらそこ座って!」


「えええ……」


 私はセリナに腕を引かれるまま、礼拝堂の椅子に座らされた。

 セリナはそのまま後ろにまわり、どこからか取り出したくしで私の髪を梳かし始める。


「あんた、元がいいんだから。もっとおしゃれするべきだわ」


 さすが城で侍女として働いているだけはある。器用なものだ。

 セリナは話しながらも、私の髪を三つ編みにしていく。


「そういえば、クラウス様が言ってる聖女がどっちかわかったの?」


 編み込みながら、セリナは何気なく尋ねてきた。

 クラウス様を助けたのが、私かミレシアどちらなのかを聞いているのだろう。

 私は静かに首を横に振った。


「……ううん、まだ」

 

「そっか。まだクラウス様の聖女がどっちなのかわかってないのか」


 セリナの声は穏やかなものだった。優しい語りかけに、少しずつ心が落ち着いていくのを感じる。


「私、あれから考えたんだけどさ。例えクラウス様の言う聖女がミレシアで、ミレシアのことを大切に思っていたとしても、あんたの魅力で振り向かせちゃえばいいのよ。大丈夫、あんたならできるわ」


 (……できるかしら、そんなこと)


 私にそこまでの魅力があるかも不安だし、もしミレシアのことを大切に思っているなら、無理に振り向かせるなんて、大切な想いに割り込むような気がして気が引ける。

 

「ほら完成!」


 あれこれ考えている間に、ヘアアレンジは出来上がったようだ。手鏡で後ろを見せてもらうと、三つ編みが編み込まれた可愛らしいハーフアップに仕上がっている。セリナは満足そうに笑っていた。

 だが、なにかに気づいたらしく、セリナは突然「あ!」と声を上げた。


「それじゃ私、そろそろ帰るわ! デート、上手くいくといいわね!」


「え? あ、ありがとう。またね」


 足早に去っていくセリナを見送る。

 その次の瞬間、まるで入れ替わりにとでもいうように、私の上へ影が落ちた。

 



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