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彼方より響く声に  作者: 秋月
最終章 消失とバイバイ、なんてな
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第五十八話 俺はお前を殺しに行くぞ

書きだめ分は後少しで完結に至ります。

「酷いなぁ、僕はわかりあおうとしてるだけなのに。こんな星はいらないって」


 俺はそんな事をうそぶくニーズヘッグにデザートイーグルを一発ぶっ放してやった。瞬間、ゾワリと嫌な予感がして首を傾けると、さっきまで眉間があった位置を寸分の違いなく銃弾が通り過ぎていった。


 さっき俺が放った筈の水銀でコーティングされた弾丸だった。そして、何かを振りぬいた体制のニーズヘッグ。


 こいつ、まさか銃弾を打ち返して攻撃してきたのか? なんていう馬鹿みたいな攻撃速度だ。振りぬいた手が見えなかった。


「わかりあうだと? 俺は地球の守護者が一人で、お前は侵略者。分かり合う必要はない」

「義務に振り回され、責任に踊らされ、あまつさえ友さえ手に掛けて、それが守護者ってやつなの?」


 黙れ。黙れよ。お前にいったい何がわかる。俺の生きてきた道筋をお前に否定されるいわれはない。


 俺はクレイモアを叩き付けて黙らせようかと思ったが、多分こいつには効かないだろうと思い直し、銃弾に魔法を織り交ぜて叩き込み始めた。こと、ここにいたって、俺に奴にダメージを与えられる程の剣術は持っていないのだ。


 デザートイーグルを何発も連発して打ち込み、ボードを操って反射や攻撃を避けながら印を結んで魔法を撃ち込みまくる。


 残念ながら、最強の魔法使いの一角であるセリンテの爺の助力は受けられない。精神体ごと完全封印するような魔法を編むには、相応の時間が必要だ。詠唱や魔方陣を度外視しても、魔力を練らなければならない。


 となれば、俺のやるべきことは、時間稼ぎとこいつを相応に消耗させる事だ。できれば、"宇宙(かなた)への呼びかけ"は使いたくない。だが、使わざるを得ないなら、戸惑う気もない。


「やれやれ。世界樹を噛んだ僕に、そんなちんけな――」


 その顔に炎の弾を叩き込んで会話を無理やり中断させながら、俺はもう一度頭の中で深く相手の考察を始めた。


 おそらく、あの刀も奴の体というか、受肉した精神体の一部だろう。だからこそ伸縮自在かつ、多分重量も感じていない。でなければ、あんな速度で銃弾を弾き返せるものか。


 何度も何度も弾丸を返され、リロードまでの十発中、多分八発は返されている。二発はよけられている。魔法は当たってこそいるものの、ダメージがない。そこから考えるに、スタミナというものがないのだろう。


 そして、直撃している筈の魔法に対してダメージがない所を見ると、体を包む膜みたいな形の対魔法防壁も張られてると考えていい。


「改めて……無茶苦茶だな」


 そう吐き捨てながら、また炎魔法を詠唱する。炎の渦が、弾丸が、矢が、鞭が、槍が、何発も何発も飛んでいく。その度に爆炎が舞い上がるが、効果がないのは確認済みだ。


 と、そこへ、氷の槍も飛んできた。


「『遅れた! 攻撃に参加する!』」

「ショーン……ッ!」


 魔法使いショーン。氷の精霊と契約した魔法使いの一人。特筆すべきほどの実力は無いといってしまえば終わりだが、今は飽和攻撃がしたい。手が一つでも増えるのはうれしい事だ。


「ショーン、奴に近接攻撃はやめておけ。多分、反応する間もなくバラバラにされる」


 そう忠告すると、ショーンは取り出しかけていた手投げ斧(トマホーク)をしまって懐から取り出した、紙に書かれた魔方陣をバラバラと撒き散らしはじめた。


 魔法使いの魔法の発動法に一定のものはない。俺は綾取りで陣を組むが、ショーンの様に予め書いておいた魔方陣をばら撒いて魔法を使う奴もいる。


 宙を舞う紙に、幾重にも重なりあったインクが光を散らして、刹那。数十個の氷の槍が現れ出でて、ニーズヘッグの元へと放たれた。俺はそれに、一瞬遅らせてから更に魔法を叩き込む。


 たまに飛んでくる日本刀の刃は、俺が弾き飛ばす。奴の刀の形状が自由自在とは言っても、さすがにこの飽和火力の中では直線的な動きしかできないようで、俺が弾けないという程ではない。


 一撃、二撃、三撃、四撃、確かに受け止め、逸らして行く。目的は短期決戦でありながら、今の所は時間稼ぎしかできない。ひとまずは、他の魔法使いの到着まで耐えなければ。二人でできるのは精々そのぐらいだ。


 クレイモアを振りかぶって、再度伸びて来た日本刀へ一撃。これだけ渾身の力で叩き付けているのに、折れるどころか、傷一つ付かない辺り格の違いを見せ付けられている気分だ。


 逆に、新調したばかりのクレイモアには嫌という程傷が付いているのだから、最悪だ。


「悲しいなぁ。君は、僕と友達になれると思ったのに」

「寝言は寝て言え」


 これだけの攻撃を受けて尚、涼しい顔で――爆炎と氷片と粉塵で見えないが――話しかけてきたニーズヘッグの言葉を一刀両断すると、俺は再度印を編む。


火よ(ヴェル)唯々燃え盛る火よ(ヴェルデルサ・ヴェル)今線と(エンヴェイ・エキル)化して(エル)我が力と成せ(ヘル・ウェイスレム)。エルシェイランッ!」


 正直、魔力を大分食うから、この魔法は使いたくなかったが、四の五の言ってられる場合でもない。印から吐き出された高熱の光線がニーズヘッグの体を薙ぐ、と思った時、ニーズヘッグの前に六角形型のバリアが張られた。


 ……やっぱり、まだ手があったか。自由自在に形状を変化させる刀、恐ろしい身体能力、および反射神経。魔法は、使えないのか、使わないのか。それはわからなかったが。


 神話に出て来る様な――それも、化け物の類である。この程度で手が尽きてしまうような生半な相手ではないのだ。現代のみょうちきりんな話で力が捻じ曲がっても、それは変わらない。だから、驚きはあまりなかった。


「危ない、危ない……。今のは、食らったら危なかったよ」


 そうかい。だったら、もっと食らわせてやるよ。そう口を開こうとしたとき、ニーズヘッグのすまし顔に向かって、紫電と、巨大な土の(つい)が飛んだ。ニーズヘッグがとっさに飛びのいて、飛んできた方向をにらみつけた。


「『遅くなった! これよりニーズヘッグ攻撃に参加する!』」

「『ったく、馬鹿みてえに数ばっかりいるから遅くなっちまったよ!』」


 聞き覚えのある仲間の声だ。名前も顔も覚えていないが、その声質だけは覚えていた。


 不意に、あの三人はどうしているだろうかと思った。そういえば、顔も、名前も、声も覚えているのは、あいつらと家族だけじゃないだろうか。ショーンの声は、自動翻訳が入っているから、実際の声はよく知らない。


 そんな感傷を振り切って、俺は再び構えた。砕けて舞ったアスファルトが風に吹かれて、健在なニーズヘッグの姿が見えた。


「行くぞ。地球は……終わらせん。」


 空のニーズヘッグの肉体は、いまだ大気圏に突入してきてはいない。だが、その巨体は既に見える範囲に入ってきている。


「ニーズヘッグ。お前が、なんで"日本語"を使っているかは、知らん。知りたくもない」


 だが、だがな。お前が地球を襲う限り、俺はお前を殺しに行くぞ。

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