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彼方より響く声に  作者: 秋月
最終章 消失とバイバイ、なんてな
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第五十話 地球存亡の危機に立ち向かう仕事

 しばらくしてから、「静粛に!」の一喝があり、会議はみたび静かになる。セリンテの爺は連盟長についているだけはあり、その気迫は一線級だ。唯、怯えという感情や諸々が薄い今の俺は、あまり驚かなかった。


「まず、ニーズヘッグがその能力を持つと推測される点について、上谷銀二(レベスケノン)、説明を」


 セリンテの爺の目だけがこちらを向いて促す。それに対して俺は頷くと、全体へ視点を向けて話し出した。


「疑いは二週間弱、前の事だ。鬼女が俺の学校を襲撃した事件の時から黒幕がそういう力を持っているんじゃないかと思った」


 そうだ。そもそも、おかしかった。人類への被害を望むなら、もっと大きく人が集まっている施設は幾つもあった筈だ。なのに、何故俺の学校を襲ったのか? そこが甚だ疑問ではあった。


 そこから、俺のいる高校でなければならなかった理由を考えた。そして、その時に日本の魔法使い達の一部が同日に襲撃されていたという話を聞き、疑念は膨れあがる。


 悪魔の数が増えているのは、既に何らかの悪魔が手引きしているものという結論は既に出ていたがために、その時は気にしなかった。だが、考えてみると、幾らなんでも俺が救援に向かう保障は無かったはずだ。


 日本の、東京以外の各地を代表している者達も相応の実力者。だが、俺以外に襲撃を受けた代表はいなかったという。確かに、襲撃の知らせがあれば飛んでいっただろう。しかし、相手方にそれを知る術は無かったはずだ。


 それゆえに、俺は"未来予知"の筋をまず考えた。未来さえ知っていれば、確かに出来るだろう事だったからだ。だが、それなら俺が襲撃を感知できないタイミングすらも予知できたはず。


 鬼女という強い戦力を俺に割くよりも、そちらの方が効率的だ。となれば、そうできなかった理由――つまり、完璧な未来予知ではなかったという結論に至った。


 その次に出てきたのが"時間逆行"である。要するにタイムトラベルであるが、自由自在な物ではないだろうと予測はできた。世界の法則を捻じ曲げ、新たな平行世界(パラレルワールド)を生む必要がある。


 となれば、それは完全に上位者を超越した唯の怪物に他ならない。世界中の人間、七十億の願いの魔力を持ってしても、そんな事は起こりえないのだから。新たな世界を――宇宙を創造するということはそういう事だ。


 相手がそういう手合いでないなら、何らかの制限が必要になる。例えば何億年に一度しか使えない、使った瞬間に五感の全てを代償として支払うなどだ。


 それ程の力を行使して、それでも遡れるのは高々数分、十数分……割に合わない禁呪である。


 だが、悪魔が使い手となればそうではない。例えば、使役している仮初の魂を代償として支払えば、数日の逆行も可能である。何十、何百と消し飛ばせば、一ヶ月は戻れるだろう。


 言う程軽い代償ではないが、超の付く上級悪魔にとっては、払えない程の物ではないのだ。その可能性が一番強い、と連盟の首脳陣は考えた。らしい。


 俺にはよく分からんが、少なくとも俺より賢い奴らが考えたんだから、異議は特にない。と、そんな時に、一人の男が挙手。たしか、イギリス代表だったか。


「それで、俺たちが日本に行って、どうするんだ? "時間逆行"相手に、どう立ち回ればいい?」


 その質問はもっともだ。他の連盟員も頷いて自分も疑問であることを伝えていた。そもそも、時間逆行能力の悪魔との交戦経験があるものはセリンテの爺と、茂文の婆様。ともかく、六十以上の魔法使いが大半だ。


 セリンテの爺もそれがわかっていて、こっくりと頷く。そして、手元の資料――おそらく、自筆――を手にとって確認しつつ、爺は語りだした。


「まずは、相手方が予測できない戦法を取るしかない」


 そのぐらいは分かる。要するに、"今まで見たこともない攻撃"を繰り出せばいいんだろう。


 これだけ連盟、特に日本にいる奴がどうやったらどう行動するなんて分かっていたなら、攻撃方法やタイミングまでバッチリ分かっている筈だ。普段やらない事や戦い方をやるしかないのは当然ともいえる。


 まぁ、それが難しいのだが……。


「だが、敵は何度も繰り返すのだろう? いつこちらの世界線が崩壊するかも分からない」


 そして、それができても――先ほど言われた疑問、つまり世界線の崩壊が起こりかねない。要するに、いつの間にか時間が戻ってる、という事態だ。


 例えば時間逆行使いを仕留められた、とする。この時点でかなり難しいが、とにかくそう仮定する。すると、しばらくは同じなのだが、しばらくすると俺たちの知らない内に"時間がさかのぼっている"。


 全て解決した、と一息ついていると、気づかない内に何日もさかのぼっている。そんなことがありえるのだ。時間逆行使いを相手にする時は。と、茂文の婆様もセリンテの爺も口を揃えて言っている。


「ああ。それも既に対処法は編み出されている」


 セリンテの爺は事も無げにそう言って見せた。


「魂ごと空間を隔離し、そこへありったけの魔法をたたきつけて消滅させる」


 初めて聞いた時は驚いた物だ。なんつう強引な作戦だ、と。


 言っておくと、魂って言うのは精神体の俗称だ。そいつを肉体から切り離して、完全に意識が消失したときに、生物は本当の死を迎える事になる。


 それを、肉体ごと別空間に幽閉し、そこにできるだけの魔法を叩き込んで精神体を完全に崩壊させることで、時間を巻き戻す隙も与えずに抹消する。簡単に説明してしまえば、そんな力押しの作戦なのだ。


 しかし、これが以外にも楽で簡単なのだという。


 要するに、容器に込められた水を、焼却炉にセットして、容器ごと蒸発させてしまおう! という作戦であり、空間に幽閉さえしてしまえば後はこっちのものだ。何十年かかろうがこっちは消滅させれば勝ちなのだから。


 とはいっても、こちらにそれだけの火力があるのかどうかも分からない。敵方がえらく頑丈な甲羅に引きこもってしまうなら、こちらとしても火力を上げざるを得ないのだ。


 だが、やるしかない。これが俺たちの使命で仕事。命を懸けた、地球存亡の危機に立ち向かう仕事だ。


「これより、ニーズヘッグ討伐作戦を開始する。全連盟員はただちに日本、東京へと集合せよ」


 さて。


 えらく忙しくなりそうだ。

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