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彼方より響く声に  作者: 秋月
三章 つかの間の休息に抉れる旧い傷痕
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第四十一話 悪魔を殺す為

 短いです。そして、超展開にご注意。






 しかしその日は酷く気分が悪く、悪魔退治も程々に帰った。


 無論、両親が寝ているかしっかりとした確認は怠らなかったが、それでも薄ぼんやりとした意識の中やっていた事は否定できない。あの、ニドホグとかいう野郎の言葉が、どうしても耳から離れなかったのだ。


 決して奪われるな、か。


 とりあえず、改めてセリンテの爺に連絡はしておいた。まだ返答は無いが、今度は鴉が阻害されるような事もなかった。


「セリンテの爺。……『恐らく、"あのお方"とされる者から接触があった。上位者である可能性あり。名前はニドホグ。それから――』」


 セリンテの爺へ向けて、あいつの正体を特定する情報になりそうなものを、片っ端から烏に送り込んで行く。俺はあまり記憶力が良くないから、こう言う事は頭の良いやつらに任せるに限る。すぐ返事こそ来なかったが、一時間もすれば烏が飛んできた。


「『虚空庫も行きづまって居た所だ。そちらの情報も入れて再度確認してみよう。お前は警戒を怠るな』」


 烏からの連絡はそれだけで、部屋に奇妙な沈黙が訪れる事になった。

 

 ふっと、綾取りの事を思い出して。赤い糸で、何気無く色々織り始めた。蝶、箒、東京タワー、蜻蛉。何も考えてはいないのに、あれよあれよとおられて行く。まるで自分の手では無いかのようだ。


 深夜近く。今日の分の仕事も終わって疲れ果て、風呂に入って温まり、布団に入っている。なのに、全く眠気は来てくれなかった。


 疲ればかり溜まって行く。


 そっと目を閉じると、目蓋の奥底、暗闇が浮かび上がった。酷く、静かだ。


 エレインは時に、俺の悪魔討伐を阻害するように動く時がある。今日も、俺を教師役にしようとしていた。


 彼女を悪魔か、などと疑ってはいない。いないが、何が気に食わないのか。俺が悪魔討伐に行こうとする時、しばしば邪魔をいれられるのだ。気にしない訳には行かなかった。


 しかし、女心というのは複雑だと聞く。俺が下手に気にして何とかなる物なのか。十数分考えたが、結論は「無意味」と出た。


 まぁ、万が一邪魔が酷いようなら――


 排除も辞さない。


 そう思って開いた片目は、知らない内に琥珀色に染まっていた。しかしそれに気付く事無く、睡魔に流されて眠りについた。




 朝起きて、そう言えば今日は退院しているのだから学校だ、と思いだす。高校も、最初はもう少し緊張感があったものだが。まぁ、悪魔を殺す仕事に関係はない。そう決め付けて、そそくさと準備をする。とはいっても、いつも通り適当に教科書をポイポイ放りこむだけだ。


 授業の時間割はとうの昔になくした。忙しい上眠いので、メモをする事もなく。結果、今の今まで忘れ物をしなかったことはない。何だかんだで先生が優しいから、何とかなってはいるが。


 それで。余裕を持ってゆっくりと登校して行く俺は、何故だか妙に目が冴えていた。


「銀二君、おはようございます」

「おはよう」


 俺に挨拶してきたのは、玲奈と前川だ。最近良く話す気がするが、あくまで短い期間であることを考えれば、意外とそうでもない気がした。


「……あぁ。おはよう。……ところで、岡田は?」


 気だるげな返事と、それをごまかす様に質問をした。正直適当極まりなかったが、玲奈は気付かなかったようで返事をした。


「今日は別の用事があるって」

「そうか」


 前川は俺の方を見たまま目を薄く細めた。何だろうか。妙に鋭いその視線は、彼女が俺を見定めようとしているようにも見えた。




 学校に着いたが、結局は何時もと変わらない。退屈な授業。退屈な教室。まぁ、退屈だと思い込んでいるから退屈なのだろうが。


 何時も変わらない、といえば。一つだけ変わった事があった。


 あのオタクトリオが魔法使いになっていた。今日、話しかけられて初めて知った。なんでも、ショーンの所に師事しているらしく、晴れて魔法使いになったのだと語られた。上月に。


 唯、それ以外に魔法使いになった奴は居なかった。まぁ、当たり前といえば当たり前だ。誰だってあんな非常事態にあえば、非日常を味わいたくなど無いだろう。オタクトリオに付いても、ある程度は留意しておくべきか。生半可では生きて行けないからな。


 机の上の、真っ白なノートに目を向けた。ノートなど一年とそこそこ、殆ど書いていない。無論付いていける訳も無く、殆ど思考はしていない。


 だが、その時ばかりは「一応書いておくか」なんて気分になった。何故だったかは、自分でも分らない。その時は国語だったのはしっかりと覚えていたのだが。


 古文はうろ覚えでなんとかなった。が、文法など分る訳も無く、まぁノートの上はぐちゃぐちゃで酷い有様となった。何をどうしたらこうなるのか、自分でも分りはしなかった。


 だから。そのぐちゃぐちゃの、場所もばらばらで混ざり合った文章が、何故そう読めたのか。頭の悪い俺には、さっぱり分っちゃ居なかった。


 "やくめをはたせ"


 "しめいをわすれるな"




 夜になるのが待ち遠しかった。


 


 血だ。血塗れ。臓器は意たる所に散らばり、生きている者は俺以外いない。手の中でポタポタと血を垂らすこいつも、ついさっきまで生きていたが。


 まぁ、何でもいい。そこら辺へ唯の死肉の塊となったインプを壁へ投げ捨てると、次へ向かう前に、エルシェイランに焼却を頼んだ。


 すると、やたら黒い火がでてきて、ふっと全て焼き払った。何だろうか。今日は随分、黒いな。まぁ、燃えるなら何でもいい。


 次は、どこだ。魔力を確認した。……いない? いや、魔力溜りは駆逐してしまったと言う事か。


 早く。早く残った悪魔を狩らないと。前回、前々回からの魔力溜りから逃げた奴らがまだ幾体か残っている筈だ。無闇矢鱈に探し回る羽目になるが。まぁ、悪魔を殺すためだ。致し方ないだろう。


 その日俺は、病的なまでに悪魔を探して回り――


 結局、家に帰ってくる事は無かった。

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